「それって天宮南斗には本命がいるって事じゃねーの?」
「そうか?」
「でなきゃ普通、誰か選ぶよ。だって正直よりどりみどりよ?」
昼メシ時の話題が南斗についてだなんて景気の悪いハナシだが、何故か俺は菱井に過去を白状させられてしまった。やっぱ、あのメールに余計な事書いたんが不味かったか。
「別に、お勉強やら生徒会やらの方が大事だからじゃねぇの?」
「いやいや。あいつなら全部掛け持ってもこなせるだろ」
――確かに。けど、かえって南斗が片思い中というのも信じらんねぇ。
「相手、全然想像つかねぇ」
「双子のお前がそんな事言うかね。まー淡白な関係みたいだし、しょうがねーのか」
淡白って、何だ。逆の単語連想すると気色悪ぃぞ。
「まー俺だってわからんけどね、想像するのはすっげー面白そう」
菱井……何だってお前はそんなに両目を輝かせてんだ?
「やっぱここは、高級住宅街の一軒家に住んでて庭にコリーがいるようなウチのお嬢とか、和服が似合う色っぽくて超美人の未亡人とか。いや逆に超地味で何の取り柄もないけど、一途でけなげな子でもいいな」
「……お前、普段一体何読んでんだ?」
「親父の官能小説と妹の少女漫画を少々。で、他に何の案があるかな」
菱井が馬鹿な事をべらべらと喋っている間に、俺らはクラスの女子に囲まれていた。
「天宮。天宮君に――ああ、紛らわしいわ、南斗君に好きな人がいるってホント?」
「いる『かも』な、ってハナシしてただけで、俺は知らねぇよ」
「じゃあ、ちょっとそれとなく調べてきてよ!」
女子達は口々に俺に注文を付ける。こいつらってみんな南斗のファンなのか?
「あー、俺からもお願い。答え合わせしたいし?」
菱井の頭は容赦なく叩いてやった。
五限は化学だ。正直あまり好きな教科じゃねぇけど、一年は問答無用でやらなきゃならないから、仕方ねぇ。
二年になったら理科は選択になる。俺は地学を選ぶつもりだ。地層とか化石はどうでも良いけど天文が内容に含まれている。
星は、今でも好きだ。
名前の由来が北斗七星なのもあるけど、俺が一番好きな星はこぐま座α星――北極星だ。
実はいつもしているイヤーカフスも、ストーンが北極星を連想させるから買った。
いつも動かず真北にあって、航海の目印にもなる星。俺が南斗に自慢できた、たった一つのモノ。人に目指されるっつぅ意味では南斗の方が似合ってるけど、あいつは「南」だ。南に南極星は無い。
考えてみりゃあ俺と南斗が互いに変わんなかったのは北極星の事を持ち出した時までで、あの星は或る意味、俺達の極点と言えるかも知れなかった。
それでも北極星の存在がいつも北天にあるから、俺は何もかもが南斗に負けてても俺でいられる。
――我ながら思考回路歪んでっかも、って思うんだけど。
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