「母さん。これから文化祭の準備で忙しくなるから、毎日遅くなるかも」
「あらぁ、ひょっとして生徒会に入ってから最初の大仕事? ますます大変になるのね。北斗、あなたもちょっと手伝ってあげたら?」
「俺、文化祭実行委員じゃねぇし。うちのクラスは菱井だから」
一年一組、っつぅいかにも物事率先して行いそうな俺のクラスだけど、メンバー全員それを裏切るかのような面倒がり揃いだ。結局、実行委員はあみだくじなんて古典的な方法で、よりにもよって菱井に決まった。ちなみに学級委員も体育祭実行委員も同じ方法で決められている。
「最近、その菱井って名前北斗の話によく出てくるね」
「そりゃ一応親友だし、俺の」
南斗は妙な顔をしていた。俺の口から「親友」なんて言葉が出たのが珍しかったんだろう。
「平凡コンビって事で仲良くやってるよ。あいつって結構楽しいし」
「じゃあ、委員会はうまくやっていけそうだね」
南斗はにっこりと微笑んだ。同じ顔なのに、俺には到底できそうもねぇ優等生の笑顔だ。
ふと、菱井のことが頭に浮かぶ。
「ごちそうさま」
いつの間にか南斗は朝メシを食い終わって席を立った。俺の方が早く食い始めたのに、食う速度まで負けてるのか。
流石にそれはちょっと、情けねぇかもしんない。
菱井が最初の文化祭実行委員に出席した直後のホームルームは、当然の事ながらうちのクラスの出し物を決める、っつぅ事になる。
「じゃー、何か案がある人手ぇ挙げてくださーい」
菱井が壇上から声をかけたが、誰も手を挙げない。つくづく積極性ってもんがねぇな俺ら。
「北斗、お前なんか出せよ」
……げ。俺に振んのか親友。
「そんな、喫茶店とかしか思いつかねぇよ」
「まー、定番だな。ほらみんな、北斗を踏み台にしてもっと斬新なアイデアを出そうぜ!」
何で無駄に爽やかに親指立てたりしてんだよ。あれか? 歯がキラーンと光る演出でもしてるつもりか!?
「何でも人気投票があって、上位の出展には賞品出るらしいんで、そこんとこヨロシク」
我らが一年一組は全員現金な奴揃いのようだ。メイド喫茶だのコスプレ喫茶だのホラー喫茶だの、さっきまでのだんまりが嘘のように発言が飛び出してくる。
――全部最後に「喫茶」が付いてるのは気にしねぇ方が良いのか。
「はーい。メイド喫茶みたいに女子がコスプレするのって、むしろ当たり前すぎるって思いまーす」
「何だよー、男にメイド服着せるつもりか、女子」
「それ、笑い取れそうだけど正直キモイから!」
結局変なアイデアは全て却下されて、ごく普通の喫茶店と言うことで落ち着いた。ただし接客は全員男子、っつぅオチはついたが。
「じゃー、これで申請出すんで、次回は準備の分担決めな」
菱井が締めて今日のホームルームは終わった。
「北斗、メモ取ってくれた?」
「……お前、こき使ってくれたうえに俺を売ったな」
「親友なんてこんな時に真っ先に利用されるものですよ、キミぃ?」
「くそっ、逆の立場になった時は覚えてやがれ」
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