文化祭が俺にもたらす災難は、まだ存在するらしい。
「あれ、北斗……って、その手のブツはひょっとして」
下駄箱に入っていたピンクの封筒を呆然と見ていた俺を、菱井が目ざとく見つけて寄ってくる。
「たぶん南斗宛。最近誤爆が増えてる気ぃすんだけど」
「天宮南斗と一緒に文化祭回りたいからじゃねーの?」
「そういや超定番の後夜祭フォークダンスまであるしな……」
「俺これから理科棟行くけど、お前ついて来れば? 委員会始まる前に本人に手紙渡しときゃーいいだろ」
「そうだな」
最近では、俺に間違って届いたと思われる手紙は家で本人に渡している。差出人のためにもこういうのは早いほうが良いだろうから、俺は菱井と一緒に本校舎の玄関を出た。
「お、まだあんまし人いない、好都合じゃん」
理科棟で最も広い階段教室には、菱井の言うとおり五人も人がいなかった。そのメンツは、俺でも何となく見覚えがある生徒会役員の連中だ。
南斗は黒板に今日の議題か何かを書いていた。きっと書記だからだろう。
菱井はさっさと空いている席に座っちまったから、俺は単独で南斗に近寄った。
「南斗」
「北斗、何でここに?」
「メールデリバリーサービス」
南斗の手はチョークで汚れてるだろうから、ブレザーのポケットに封筒を押し込んでやる。それであいつは理解したようだ。
「――有り難う、わざわざ」
目的は達したし、菱井に軽く手を振ってここを立ち去ろうって思った矢先、別の生徒会役員に見つかった。
「あれぇ? 天宮君が二人いる」
「山口先輩」
「ひょっとして例のお兄さん?」
「天宮北斗です」
「ふーん、似てる似てる、顔そっくりぃ」
一年の間じゃ清楚系美人で通ってんのに、実際の山口副会長は俺たちの顔を見比べてきゃあきゃあ騒いでいる。
知らなくても良い事を知ってしまった。
――南斗が少女の夢を壊さねぇキャラなのは、随分良いことなんだな。
「北斗君、委員会出席者?」
「いえ、俺南斗に野暮用があっただけなんで。もう帰ります」
「そんなぁ、つっまんないのー」
「先輩あの、北斗困ってますから。それにもうすぐ他の実行委員来ますよ」
南斗の言うとおり、階段教室には人が集まり始めていた。
「えぇー、仕方ないなぁ、天宮君がそう言うんならぁ」
「じゃ、部外者なんで失礼します」
一応庇ってくれた南斗に目線で礼を言ってその場から立ち去る。階段教室を出てから携帯を確認すると菱井からのメールが来ていた。
『多分六時頃終わる。一緒にメシ食えるなら返信くれ』
帰宅部の俺が放課後に居残る理由なんてねぇんだけど、何か今日はまっすぐ帰る気にならない。
俺は図書室に向かった。
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