図書室は五時には閉館する。菱井を待つ間の残り時間、俺は教室に戻って借りた本を眺めながら、来年度のコースと科目選択について考えていた。
理系に進む場合は理科教科を二つ選択しなきゃならない。一つは幸崎先生の地学で決まりとして、もう一つは生物あたりで茶ぁ濁すつもりだったけど、もし大学で天文やるんなら、もう一個は物理取んねぇとマズいかもしんねぇな。
天文に興味があると言った手前、幸崎先生に対して恥ずかしい思いはしたくなかった。
引き戸が開く音がした。
委員会終わって菱井が戻ってきたんだろう。そう思ったのに、なかなか入って来ねぇ。
「菱井?」
「菱井君のいるパンフレットチームは、まだ話し合い中だよ」
「……南斗かよ。珍しいな」
昔から、俺らはお互いのクラスには滅多に行かない。南斗が忘れ物なんてするわけが無く、俺も極力南斗の世話にはなりたくなくて、毎晩ちゃんと鞄の中身を確認している。
「何か用?」
「それはさっき菱井君の事伝えたから、終わった」
ならさっさと帰るもんだろう、と思った南斗は教室内に入ってきて、俺は思わず本を机に隠した。
南斗はそのまま俺の前の奴の席に座って、何故か俺の顔を見ている。
「おい、なんだよ」
「北斗と学校で顔合わせるのって、凄く久しぶりだなぁって思って」
「クラス違うんだし、双子だからってずっとつるんでる必然性無いだろ」
「まぁ、北斗はそう思ってるだろうけど」
南斗の方こそ、普段から別に俺の事気にして無いじゃねぇか。
内心ちょっとむかついたけど、今更言うことじゃねぇから黙っておく。
「そろそろ帰ろう」
「え、けど」
「だから先に帰っても良いって、菱井君が」
俺は溜息をつきながら席を立った。こんな事ならさっさと帰りゃあ良かったな――いや、そうすっと幸崎先生にゃ遇えなかったか。
「北斗、何か楽しそうだけど?」
「ちょっと菱井への復讐計画考えてる」
「本人のせいじゃないんだし、可哀想じゃない?」
そう、菱井は全く悪くないし、ちょっと感謝してやってもいいぐらいだ。
でも俺の考えてた事を南斗に知られねぇ為なら、奴には幾らでも被害者になってもらおう。
もう校庭にも殆ど人はいなくて、俺らが並んで歩いている姿に注目するような奴はいなかった。俺はその事に安心する。階段教室で起きたような事態には、出来ればもう遭遇したくねぇ。
俺は、南斗の世界と関わるつもりは無い。
そうだ、結局、本は持って帰れなかったな。まぁ、明日の朝イチで鞄に入れときゃいいか。
prev/next/polestars/polestarsシリーズ/目次