俺らの部屋は自宅の二階にある。小学校を卒業するまでは一つの部屋で生活してたんだけど、中学に入る直前にリフォームして部屋を分けた。それ以来、プライバシーを尊重して互いの部屋には許可が無い限り入らねぇようにしている。
部屋に入って鞄を適当に投げたあと、俺はベッドの下に隠してあるクリアボックスを引っ張り出した。中には時々こっそり買っている星の本が入っている。
夕飯までの間、忘れてきた本の代わりに読むつもりで、中の一冊を適当に選んでベッドに寝転がる。
――あ、「星と伝説」じゃん。なっつかしい。北斗七星が豚に化ける話があって、自分も朝起きたら豚になっちまってるんじゃないか、って妙に心配になったしょっぱい思い出がある。
この本を買ってきたのは南斗だった。確か、南斗六星の数の不利を覆すためだったんだよな。部屋分けのついでに南斗と共有していたものを分配した時、偶然俺のものになったけど。
まだ何年も経ってないのに、あの頃の自分達は遠い存在に感じる。記憶では俺と南斗の境界は曖昧で、俺らはいつも一緒に遊び回って一緒に褒められ、叱られた。
「北斗? 夕飯」
「ああ、わかった」
ノック音がしたので俺は身体を起こし、本をボックスに戻した。南斗はドアの外に立っている。今日はやけにこいつに待ち伏せされる日だ。
「今日、なに?」
「さっき見たら里芋とイカの煮物だった。北斗、好きだろう?」
「主にイカだけな」
「俺は寧ろ、イモ」
「――見事に別れたな」
南斗の言ってた通り、晩メシのおかずは煮物だった。母さんが作る料理って和食の方が美味いって思うから、何となく嬉しい。
うちは父さんの帰りが不規則だから、晩メシは専ら母さんと俺らの三人で食べる習慣だ。南斗が生徒会役員になってからは、あいつもいない場合が結構あるけど。
「南斗、文化祭の準備はどう?」
「まだ始まったばかりだから、まずは出展希望と場所の調整でもめるかな。北斗のクラスは喫茶店だよね?」
「あぁ」
……くそ、菱井の裏切りを思い出したぞ、今。
「じゃあ場所は教室そのまま使うよね。うちは屋台だから、出店場所は抽選になるんだよね」
「お前、役員なんだから良い場所取れるだろ」
「流石にそこで手を回すと、職権乱用になるから」
「真面目だな、南斗は」
「あら、今から政治汚職を覚えるようじゃ駄目よねぇ?」
汚職、って、それじゃ金満政治家の悪行みたいじゃねぇか。たかだか文化祭の場所取りぐらいで、どうよ?
南斗も大袈裟とは思ったらしく、笑いが引きつっていた。
メシと風呂をとっとと済ませて、俺は読書を再開した。しかし一時間も経たないうちにそのまま眠ってしまったらしく、翌朝起こしに来た母さんに電気代の無駄をこってりと絞られる羽目になった。
prev/next/polestars/polestarsシリーズ/目次