INTEGRAL INFINITY : polestars

「北斗。いい加減起きなよ」
「んだよ……まだ早ぇじゃんかよ」
「何言ってるんだよ。今日始業式だよ?」
「マジっ!?」
 慌てて目を開けると、既に制服のネクタイまで締め終わってる南斗と視線がかち合った。
「……お前、随分早ぇな」
 普通、長い休み直後の第一日目の寝起きって、さっきまでの俺みたいにぐずつくもんじゃねぇのか?
「俺は昨日から登校だったから。一日あれば身体は慣れるよ」
「そうか、お前生徒会役員だから入学式にも出たんだな」
 北斗は俺が帰ってきた時も寝てただろう、と南斗に指摘され、俺はぐうの音も出なかった。
「とにかくもう準備しないと朝食食べ損ねるから」
「えぇー……」
 それでも渋る俺に、南斗は極上の笑顔を向けて言い放った。
「――剥くよ?」
「起きる、起きるっ!!」

 最近では、どっちかに用事が無ぇ限りは二人並んで登校すんのがすっかり習慣になっている。
「南斗。入学式ってどんな感じだった?」
「俺は本当にいただけだから、何とも。あ、小野寺先輩の挨拶のとき騒いでる女の子達がいたな」
 あのひと他校の人にも人気あるからね、と南斗が言った。会長で思い出したけど、確か菱井の妹さんも今年うちに入学したんだよな。
「来年はお前がやるんだろ、入学式での生徒会長挨拶」
「先輩との約束だから、次の選挙には会長で立候補するつもりだけど。まぁ、当選したら、ね」
 こいつ自身の人気考えると落選するはずねぇ、って思うけどな。小野寺会長はそこに目を付けたんだろうか。
「先輩が俺に声を掛けたのは、俺は笑顔で周囲を騙すタイプだからだ、って」
「――ぷっ」
 ちょっとの間こらえたけど、結局俺は思い切り笑ってしまった。
「やーべーえー、面白すぎー!」
「そんなに笑われると、流石に傷つくんだけど」
「だって、凄ぇ当たってんじゃん!」
 そりゃ優等生の仮面は慣れると便利だったけど、なんて南斗は呟いている。
「でも小野寺先輩ほどじゃないよ……」
「だよな。お前の本性って実は相当情けねぇもんな」
「お願い北斗、もうそれ言わないで……」
 南斗が俺の肩にすがったけど、このネタはあと五年ぐらい引っ張っても俺に罰は当たらないと思う。

「選挙の前に現生徒会の最後の大仕事、片付けないと」
 それって何、って訊くと、今年度の各部活の予算決めだ、って南斗は言った。
「五月いっぱいまでに無事に決まるかな……俺より酒谷のほうが大変かもしれないけどね」
 そういや今からの時期って、部活の勧誘とかあるんだよな。
「南斗、いや天文部部長さん。俺、今年から入部しちゃ駄目?」
「え――あれ以来、そのこと全然言わなかったのに、どうして?」

「これからはずっと、お前と星を追っかけてぇから」

 同じ教科選択して、同じ大学の同じ学科行って、同じ進路を辿って二人でずっと一緒にいられたら良い、ってのが、今の俺の正直な願いだった。

「そのうち俺らのためだけの、お前の南極星を二人で探す、っつぅのも夢があって良いんじゃね?」

 これからは何でも競い合って、相手に誇れる自分になって――互いを輝かせる星に二人でなりたい。

 

fin.

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――およそ三ヶ月に渡って、アメリカ旅行中を除いてほぼ毎日更新し続けた連載がとうとう完結を迎えました。

 時々「そういやこんな設定作ったな」と思うだけだった十年前の亡霊が、ここまで成長するとは第0話掲載時には全く考えていませんでした。「jade pebble」の掌編連作だけじゃサイトが寂しいから、と言う理由の気まぐれで開始し、更新もきっと亀ペースなんだろうな、と思っていたぐらいです。それが蓋を開けてみれば、少ない余暇の時間のかなりの割合を割き、萌えに萌えまくった挙げ句周囲が全く見えなくなるほどひたすらに書き続け更新し続けるという状態になっていました。

 そのように筆者を駆り立て完結に至るまでの力を与えてくださったのは、ひとえに読者様方から頂いたコメントの数々です。拍手を設置して最初に頂いたコメントがこの作品の続きを楽しみにしてくださっているとのお言葉であり、生来調子に乗りやすい筆者はあっという間に乗ってしまったのでした。時に優しく時に厳しいご意見・ご感想は一つ残らず保存してあります。宝物です。

 今後、番外編や菱井編など幾つか書く予定のものはありますが、今までもそしてこれからも、「polestars」本編を書いていた時が物書きとして一番幸せな時間だったのだと思います。最後までお付き合いくださり大変有り難うございました。

2006/05/23 ∫