「やっべぇ、俺らの制服、ドロドロのぐちゃぐちゃ」
俺らは後夜祭の時のようにグラウンド沿いの石段に並んでもたれていた。
「家に帰ったら、間違いなく何してたか訊かれるね、これは」
「あー……取っ組み合い?」
そりゃあ九割五分ぐらい本当だけど、って南斗がぼやく。
「男兄弟だからそれ以上追求されねぇだろ」
実際、俺が南斗の頬、張ったからな。
「北斗がばら撒いた願書も拾わないと。警備員に見られたら明らかに不審者扱いだよね」
「そこんとこは平気だぜ。幸崎先生に頼んで、俺ら部活動で下校遅くなる、っつぅ許可取ってもらってっから。後はどうにでも誤魔化せるだろ」
今夜晴れてなきゃ使えねぇ手だったけどな、って俺が笑うと、南斗は複雑な表情になった。
「そういやさぁ――南斗、何で星だったん?」
俺は夜空に視線を移し、幸崎先生が唯一教えてくれなかった事について南斗に訊いてみた。
「昔、北斗が言ったよね。北極星はあるけど南極星は無い、って。あの時俺、何故か物凄くショックだった。最初は理由が解らなくて、知りたくて北極星について調べたら、ポールスターって単語には道しるべ、って意味があるのを知って。その時から俺の中で北斗は北極星になった。俺はずっと、北斗がそこにいるほうに向かって進んでたから」
南斗の手が俺の指を探り当て、軽く握ってくる。
「だから俺も南極星になりたくて、なら目指されるような人間になればいいのかと思ったんだけど」
中学入ってからいきなり南斗が勉強とか色々努力し始めたのには、そんな理由があったのか。
「自分の本当の気持ちに気付いた頃には、そういう想いが星空全体に広がってた」
「――なんだ、ホントに同じなんだな、俺ら」
「え?」
「俺も、南斗に思い切り引き離されてもお前が目指してくれる北極星でいられれば良い、って心のどっかで思ってた。だから星が好きだった」
俺らはお互い同じ事考えてて、なのにここまで来るのにかなり遠回りしちまったけど。
「これからはちゃんと話しような」
「うん」
「煮詰まってからじゃ遅いしな」
「……うん」
俺は南斗の手から指を引き抜いて、掌を握り返した。
「……くしゅっ」
流石に、寒空の下に長時間いるのはきつかったかもしんねぇ。
「身体冷えた? 早く帰って風呂に入ったほうがいいんじゃない?」
じゃあ一緒に入るか、っつったら南斗は大慌てで辞退した……何を今更。
「それは置いといて、何かまだ帰りたくねぇ気分なんだよなぁ」
身体でも動かせばちったぁマシになるか、って考えて、俺はある事を思い出した。
「――南斗。いきなりだけど、フォークダンス踊んねぇ?」
「え?」
「お前、後夜祭んときフォークダンスはホントに好きな奴としか踊らねぇ、って言ってただろ」
南斗はよく覚えてたね、だなんて感心している。
「あの時は北斗に気付かれないようにするのに必死で、こんな日が来るなんて思いもしなかった」
「ほら、行くぜ」
俺は南斗の手を引っ張って、二人でグラウンドに戻る。
最初のステップ踏む直前、何も言わなくても俺らは北天を見上げていた。
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