「あっどうですかー? 一年一組『イケメン喫――」
「あの、天宮君」
菱井の言葉を遮って奈良さんが口を開いた。なんか、前に見たときより顔が強張っているような気がする。菱井もそれで事情を察したのか、それ以上は喋らなかった。
「この前は本当にごめんなさい! 私が間違えたのに、天宮君は全然悪くないのに、自分の事だけ考えて勝手に逃げたりして」
「いや、いいよ。俺もやっぱ悪いから。そういう事って前からあったし、多分南斗のだって思ったくせに勝手に開けて勝手に来たんだからさ」
「でも……」
俺は本当に気にしてなかったけど、奈良さんのほうは俺と上手く目も合わせらんねぇ状態で、だんだんこっちの方が本当に申し訳ねぇ気分になってきた。
脇腹を肘でつつかれ、横を向くと菱井が奈良さんと教室内を交互に顎で指していた。
「じゃあさ、俺らんとこで何か飲んでってよ。それで、奈良さんが俺に感じてる借りは返したっつぅ事で」
「う、うん……!」
「じゃー、一名様ご案内、行ってきな」
俺は頷く。今日はもう、菱井に二個も恩ができたな。これ以上エプロンのネタで強請るのはやめといてやろう。
その後、俺は客第一号になった奈良さん相手に接客して、彼女の注文したミルクティーを運んだときに四組の出し物についてちょっと会話した。
一度わだかまりが消えちまえば、奈良さんは前に勝手に思ったように素直で良い子っぽいって感じがした。
でも振ったんだよな、南斗の奴。
そう思うと流石にあいつの話題は出せなかった。
奈良さんが帰った後はまた呼び込みに戻ったけど、歩いてる人に声をかけるのはだいたい菱井だ。俺は菱井に合わせて笑っているだけで良い、と言われたのでその通りにしていた。それで俺も気が楽になってきて、写真部の緑川が活動の一環だと言って写真を撮影しに来た時は二人でノリノリでポーズを取ったりもした。
「よっしゃ、シフト終わった。他見に行こうぜ、北斗」
「そうだな、腹減ったしよその屋台回ろうぜ。四組、外で水餃子だって」
「変わってんなー。旨そうだし、行くか! で、四組の場所何処だっけ」
「ちょっと待て。パンフで確認する」
菱井他が苦労して作ったパンフを開き、配置を確認する。四組は第一校舎と第二校舎の間か。
あれ? 第二校舎に「天文部」……? うち、そんな部あったっけ。部活勧誘の時はポスターも見なかった気がすんだけど。
天文部って事は、幸崎先生が関わってる、っつぅ可能性は無いだろうか。あの人は新任だけど、前の先生から引き継いだとか、それとも先生がこの部を作ったのかもしんねぇ。
「菱井。お前、実行委員の当番って何時から?」
「あー、二時から」
菱井と別行動になったら、俺は一人で天文部に行ってみる事に決めた。
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