一年四組の水餃子はその場で茹でてる本格派で、凄ぇ旨かった。俺も菱井も思わず二杯食ったぐらいだ。
「次、何処行く?」
「お化け屋敷はパス。文化祭レベルなんて子供だましで恐がれねーじゃん」
「同感。第一、男二人で行ったって凄ぇ虚しい」
「視聴覚室でやるライブとかは、途中で当番の時間になったらマズイからなー。まー俺はとにかく食い歩きたい」
菱井のリクエストは俺の希望でもあったので、俺達は主に外の屋台を渡り歩いた。焼きそばのようにオーソドックスなものから、色々な具が入ったミニコロッケみてぇなちょっと変わったものまで色々あって、どこも凄ぇな、って思う。賞金かかってるからだろうな。
南斗のクラスも屋台だったけど、たこ焼き屋は他にもやってるところがあったからそっちで買った。
自分たちが楽しむ側だと思ったよりも時間は早く過ぎて、携帯の時計を見たらもう二時十分前だった。
「じゃあ俺、校門の受付んとこに行ってくるわ」
「ああ。終わったら電話しろよ」
「了解」
菱井と別れた俺は、今日一番行きたかったところに向かった。
天文部の出し物は第二校舎一階の、一番奥の教室でやっていた。
他は何処も廊下の壁からして気合いが入ってんのに、ここは全然宣伝する気がねぇみたいで、B5ぐらいの紙に大きく「天文部」と言う文字だけプリントアウトしたものがドアに張ってあるだけだ。そのせいか人の気配が全然しない。
「すんませーん」
声をかけながら中に入ると――考えてた通り、幸崎先生は隅の方に置かれた椅子に座って雑誌を読んでいた。
「やっぱり、先生が顧問だったんだ」
「君は、この間の」
先生は雑誌を横の平机に置いて立ち上がり、俺の方を向いて微笑んだ。久しぶりに間近で見たけど、やっぱり優しそうな笑顔だ。
それよりも先生、俺の事憶えててくれたんだ。俺、先生が授業を持ってる学年じゃないのに。
だからわざわざ会いに行くって不自然な事が俺にゃ出来なくて、職員室に用があったときとか、廊下で偶然すれ違ったときはラッキー、なんて思ってた。
「君、天宮南斗君の兄弟だよね?」
途端に、俺の気持ちが萎んでいく。そうだよな……よく考えたら生徒会役員の南斗の顔を教師の幸崎先生が知らねぇわけ無くて、それで少し印象に残ってただけかもしんねぇ。
「そうです。天宮北斗って言います」
「二人揃って星の名前、か。だから前、天文に興味があるって言っていたんだね」
あ。先生、会話の内容まで憶えててくれてる。
「はい」
「僕が地学教師って君は知ってたんだね。一年だから知らないって思ったけど」
「俺、来年は先生の授業取るつもりだ、って言いましたよね」
――やべぇ俺、何かすげぇ嬉しい。
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