天文部の展示は、壁に貼ってある天体写真だけだった。俺は緑川と違って写真のことはよく解んねぇけど、大きいサイズに引き延ばして現像されていても粗が見えねぇから、ひょっとしたら凄いぇ良い機材で撮ったのかもしれない。
写真には特にタイトル無くて、それぞれの下に張られた紙には単純に撮影された日時が書いてあるだけだ。どれも夏、それも数日に集中していた。
「この写真って天文部の合宿で撮影したんですか?」
「そうだよ。出来たばかりの部で初めての合宿だったから、夏の写真しか無いんだよ。冬休みや春休みには、また天体撮影会をしたいと考えてる」
「そう言えば、その天文部の人達って何でここにいないんですか?」
「部員は全員掛け持ちでね、文化祭はそっちの方で忙しいから、暇な僕が店番をしてるんだよ。まぁ、盗られるようなものは無いけどね」
「へぇ」
今年出来た部活って言うなら、そう言うこともあるんだろう。
俺だったら、この部に入ったら専属状態なのにな。
「あ、この写真っておおぐま座じゃん」
北斗七星、ってはっきり言うのは何か先生の前じゃ照れくさかったから、そんな言い方になる。写真は教室の後ろの壁の真ん中に貼ってあって、左右の写真とは少し離されているうえ、他には無い色紙の台紙まである。
「北天の写真だよ。それが一番巧くいった、って撮った本人が言っていた。それに誰でも知ってるから、今回のメイン作品ってところかな」
確かに、北斗七星のひしゃく型は解りやすいしな。同じような例にオリオン座もあるけど、あれは冬シーズンのもんだし。南斗六星は射手座の一部だから写真があってもおかしくねぇけど、今まで見た中には無かった。
そういや、セイント勝負もやったことあったな。これは俺の完敗だった。射手座は黄金でも一番美味しいポジションだし。
「これ北極星も写ってるね、ギリギリだけど……俺、北極星が一番好きなんすよ」
「北斗七星じゃなくて?」
「極の星って北にしか無いじゃないっすか。すげぇ特別って感じがする」
まだ二回しか話した事がない幸崎先生に、いきなりはヤバイと思ったから、南斗との事を話すのはやめた。先生と親しくなったら、ひょっとしたらそういう機会があるかもしれない。
「天宮君はやっぱり双子座も好きなのかい?」
「偶然、生まれ星座は双子座だけど、俺はどっちかって言うと嫌いかも」
「そうなんだ、意外だなぁ」
「イラストなんかじゃ子供に描かれてるけどさ、神話だと英雄の割にやってる事酷いじゃん」
賭けでズルされたからって普通花嫁攫うか? それで怨まれて殺されてもあんま同情できねぇ。まぁ昔の話って釈然としねぇのが多いけど。
襲われて双子の片方が死ぬけど、それは父親が人間だったから。もう一人は神が父親だから死なない。
双子なのに、二人は決定的に違う。
――俺が双子座を好きになれねぇ本当の理由は、そこにあった。
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