INTEGRAL INFINITY : polestars

 ウェイター組の帰りは、教室の片づけと明日の準備をしてからだった。何だか俺らにばっか面倒な事が集まってる気がする。
「女子って要領いいのな……」
 溜息をついた久保田の言葉には、その場に残っていた全員が同感だった。
「なぁ天宮」
「なに、橘」
「お前八組の屋台行った?」
「いや、行かない」
「書記の天宮、俺が入ったあたりの時に一人でうちの喫茶店に来たぞ」
「えっ、マジ?」
 橘の話が本当なら、俺と菱井が分かれたぐらいの時か。
 橘や同じシフト連中の話によると、南斗は俺がいるかどうか訊き、「いない」言われたあとに「折角だから」と中でコーヒーを飲んでいったらしい。正直男一人では入りにくい雰囲気なのに、よくやるな……。
「しっかし、ほんと双子なんだなー」
「そーそー、髪の色とか違うのに顔はお前なんだもん、笑えた」
「俺も、お前が背筋延ばして座って優雅にコーヒー飲んでるって脳内変換して吹きそうになったぜ。いつもだるそうに背中丸めてっからさぁ」
――さっきからこいつら、酷ぇ事ばっか言ってねぇか?
「なー、これから何か食ってかねぇ?」
 菱井の提案にみんなが乗る。かなり大所帯だな。って、明日は明日で打ち上げやる気だろうか。
「北斗、楽しいだろ」
「はぁ? 唐突だな菱井」
「まーまー。大勢で馬鹿な事やれるのって今だけよ?」
 菱井は締まりのない顔つきで笑っている。張り切って女子を呼び込んでいた時の顔は詐欺だな、ありゃあ。

 結局、俺は何のかんのと言いつつ引き留める菱井に付き合って、最後までウェイター組の連中と遊び回った。連絡も忘れてたもんで、帰るなり母さんに捕まって小言を言われた。
「母さん。イベントの時ぐらい良いんじゃない? 俺も明日は遅いよ」
「南斗はちゃんと事前に言ってくれるから良いのよ。北斗、今度からちゃんと連絡しなさいよ?」
「へーい……俺も、明日も多分遅いから」
「北斗っ!!」
――ちゃんと事前申告したのに、理不尽だ、うん。

 母さんから逃げ出して二階に上がると南斗が追ってきた。
「北斗、今日一組に行ったんだけど、入れ違いだった」
「そうだ、橘から聞いたんだった。何で?」
「何で、って、兄弟だから、普通じゃない? 俺、北斗のウェイター姿見たかったんだけど」
 そうか? 俺は南斗がたこ焼き焼いてるとこなんて別に興味ねぇんだけど。
「明日のシフトはいつ?」
「俺は2時から4時まで」
「あ、その時間帯は体育館でイベント運営だった。残念」
「そだよ、俺だって見たかったよミスコン。っつか、見てぇなら後でエプロンと蝶ネクタイ貸すぜ?」
 同じ顔なんだから自分で鏡見れば十分じゃん、って思う。南斗も俺の考えてた事はすぐに判ったらしい。
「やだよ、いくら同じ顔でも、鏡だったらナルシストっぽい」

 あれ、何か全然普通に南斗と話せてんじゃん、俺。いつもだったら面倒なだけなのに――。

 ひょっとして、菱井だけじゃどっか足りなかったとこに、幸崎先生って存在が入ったからかもしんねぇ。

 

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 喫茶店でコーヒーを飲む南斗の姿を想像し、小指を立てている映像が浮かんでしまって慌てて消しました。