文化祭二日目の朝、俺は久しぶりに南斗と一緒に家を出た。いつもは南斗の方が早く支度終わるし、俺はわざとあいつが先にでるまでリビングでだらだらしている。
二人で並んで歩くと注目されるし、学校の近くまで来ると南斗の知り合いが寄ってくるのも鬱陶しいからだ。
けど今朝は全然気にならないし、寧ろ俺は積極的に、見に行けないミスコンの話を南斗から聞きだしていた。
「何でお前がミスコンの司会やんの? 副会長の方が優先順位高くねぇ?」
「……山口先輩、自分がミスコンにエントリーしちゃったんだよ」
「うわっ、何かあの人ならやりそう」
「去年僅差で負けたのが悔しいんだってさ」
俺ん中で山口先輩のイメージがどんどん崩れてくなぁ。久保田とか、まだ夢を見てる一年もミスコン見たら目が覚めるかもしんねぇ。
「実際美人だとは思うんだけどね」
山口先輩って、菱井の作った「天宮南斗の恋愛対象は誰かレース」にエントリーされてたよな。
急に思い出したら、何か気が重くなった。
答えって、俺が南斗に訊かなきゃなんねぇんだよなぁ――何で俺だよ、嫌だよそんなん。
「あれ、いきなり顔しかめてどうしたの、北斗」
「いや、何でもねぇ。もうちょっとこの件は忘れとく」
折角爽やかで楽しい気分だったんだ、嫌なことは後回しにしとくか。
南斗とは一組の教室の前で別れた。それから俺はロッカーに荷物を放り込んで、先に来ていた菱井と合流した。今日は午前中から昼にかけてが暇なので、シフトに入る前に色々と見るつもりだ。
「珍しいな、お前が天宮南斗と登校してくるなんて」
「俺もそう思ったよ」
例の件を訊かれるかと思うとひやりとしたけど、菱井は特に何も言ってこなかった。
「昨日から機嫌良さそうだもんな。じゃなきゃ昨日は最後まで残らないだろ」
「あれは、お前が引き留めたからじゃん」
「いつもだったら他の連中と遊ぶの比較的嫌がるじゃん、北斗は」
菱井は俺の心境の変化をきっちり把握しているようだ。こいつのこういうところって俺は敵わないと思うし、付き合いやすい一因なんだよな。
まず始めにやったのが、昨日回りきれなかった食い物屋巡りだ。最初から飛ばしたから、かなり腹一杯。金も一体幾ら使ったんだろうか。後は適当にぶらついてたけど、偶然入った写真部で、緑川に昨日撮らせた写真がもう現像されて文化祭ピンナップとして貼られてるのを発見した。これって多分肖像権侵害ってやつじゃねぇか?
今日は外部からもたくさん客が来ていて、うちのとは違う制服の女の子が良く目に付く。
「うわー、可愛い子がうちらの喫茶店に来ないかね? 昨日は早いシフトだったから外部の客があんまり来なかったしなー」
「ナンパしてその後どうする気だ?」
「とりあえず、後夜祭のフォークダンスで一緒に踊ってもらう」
「後夜祭は外部の参加禁止だろうが、アホ」
「しまったー!!」
こいつ、本気で忘れてたな。頭抱えてしゃがみ込むなんて、通行人の邪魔とは思わねぇのか?
「菱井お前、そろそろ受付当番の時間じゃねぇか?」
「あっ! そうだったそうだった」
「終わったら直で教室行くだろ?」
「ああ。じゃあ、また後で――うぁ!」
菱井は勢いよく立ち上がろうとして、足をひねってコケた。
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