幸崎先生が解説してくれたのは、俺の名前に合わせたのかおおぐま座や北斗七星、そして北極星に関わる話だった。どれも昔から知ってる話だし、平たい天井はあんまり良い映写スクリーンじゃねぇけど、先生のあんまり低くない声で、俺のためだけに語られるのを聴いているだけで、俺は凄い幸福な気分に浸っていられた――。
「ありがと、先生。面白かったよ」
「良かった。北斗君に納得して貰えるか不安だったからね」
先生は席を立って教室内の灯りを点けた。一瞬目がくらんで顔を横に向けた俺の細めた視線の先に、中身のないプラスチックのパック容器を発見した。
「あれ? これ、俺が買ってきた奴じゃないっすよね?」
俺達がさっき食べた奴はまとめて置いてあるけど、これは一人分しかない。しかも青のり混じりのソースで汚れてる。
「君が来る前に、うちの部員が持ってきてくれたんだ」
「じゃあ、先生――」
その先を続けなくても先生は俺の思った事を判ってくれたみたいで、照れた感じの表情になった。
先生はもう昼飯食ってたけど、俺の為に黙ってたこ焼きを食べてくれたんだ。
胸がいっぱいになる、って感じは、今のこの気持ちを言うのかも知んねぇ。
「俺、クラスの喫茶店の当番だからそろそろ行くよ。ゴミは全部捨てとくから」
「ああ、また気を遣わせてしまうね。有り難う」
「全然。普通じゃん?」
本当は、いつもだったら面倒くさくて他人のゴミまでは持ってかねぇ。相手が先生だから、するんだ。そんな自覚はちゃんと俺の中にあった。
「そうだ。俺がここに来た事、他人にゃ内緒にしててくれる?」
「どうして?」
「星が好きな事、実は誰にも言ってないんだ。家族にも」
北極星と星に関する事は、南斗には関係のない俺だけの世界にしておきてぇから。
だから幸崎先生との事も、俺達だけの時間にしてぇんだ。
「じゃあ北斗君の許可が出るまで秘密にしておくよ。でも、昨日も含めて入ってきたお客さん達に関しては責任持てないからね?」
「ま、それは仕方ねぇよ」
別に、そいつらが俺の事を南斗に報告する可能性って殆ど無いだろうしな。
俺は改めて先生に挨拶して、教室を出た。
「北斗、ちょっと遅刻だぞ」
「悪ぃ悪ぃ」
「急いで着替えろよ」
菱井はもう着替えが終わってて、スタンバイOKって感じだ。俺も慌てて上着と制服のズボンを脱ぐ。
「お前、何処いってたの?」
「ちょっと部活見学」
嘘じゃあない。俺はこの時、天文部に入部する決意を固めていた。
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