「よし、会長達のところから引き返してきた女の子を捕まえる」
「……無駄に歩き回るより、最初からそうした方が良かったんじゃねぇの?」
「言うなよ。で、北斗はどーすんだ?」
別に俺は女子と踊りたいなんて考えて無かったからな。それに、あの群れの余りだけは絶対に嫌だ。
俺が首を横に振ると、それだけで菱井には理由が解ったみたいだ。
「ごめん、お前、そうだったよな」
「気にしないでさっさと行って来いよ。本当に無駄骨になるぞ」
俺はこの場で菱井を見送って、後は適当にどっかに座って時間を潰す予定だったけど――
「あーっ、ほっくと君だぁー!」
突然、俺に体当たりをしてきた相手を見て、俺だけじゃなく菱井も完全にそっちに気を取られた。何せ、彼女はさっきミス惣稜のタイトルを獲ったばかりの山口副会長なのだ。
「ねーねー、見てくれた? あたしがミスコン勝ったとこ」
ほらほら、と副会長は頭に乗っけたビーズの冠を見せつけた。紐が付いていて顎の下で結ぶようになってたから、俺にぶつかってきても下に落ちなかったらしい。
「俺達、その時間は自分のクラスの当番だったんすよ」
「あれ、何とそこにいるのはヒッシー」
山口副会長、菱井の名前憶えてんだ。いやそれより、ニックネームだったぞ? そこまで仲良くなったなんて菱井の奴一言も言わなかったけど。まぁ副会長なら、特に親しくない相手でも適当にニックネームつけて呼ぶのもアリっぽい。南斗と兄弟とはいえ、実質会うのは二回目の俺にだって妙に馴れ馴れしいしな。
「ヒッシー、アイツのとこ行かなくていいの?」
「いいんです。っつか死んでもごめんだし」
「そんな事言って。アイツ泣いちゃうかもよ」
「アレがそんなタマだと思います? もう文化祭終わったんだから関わる気無いっす」
俺の知らない話題で菱井と副会長が盛り上がっていると、吹奏楽部が演奏するダンスのBGMが始まった。
「おい、菱井」
「やべー! 女の子捕まえ損ねた!」
「ヒッシー、ナンパする予定だったの? ごめんねぇ邪魔して」
「うわぁー…!」
がっくりと肩を落とす菱井に、山口副会長はとんでもねぇ提案をした。
「じゃー、ヒッシーあたしと踊ろうよ」
「え、せ、先輩と!?」
「だってアイツは放っとくんでしょ? ほら、行こ行こ」
油断していたらしい菱井は、抵抗するまもなく副会長に腕を引っ張られて踊りの輪の方に行ってしまった。
菱井に凄ぇ数の殺気が集まってんのは、間違いなく気のせいなんかじゃねぇな。
「……天宮。後で菱井の奴、リンチ決定な」
気が付けば、久保田が物凄ぇ顔して俺の背後に立っていた。
prev/next/polestars/polestarsシリーズ/目次