INTEGRAL INFINITY : polestars

 俺が南斗の言葉を正しく理解するまで、何秒の間が空いたんだろう。
「お前、ホントに本命いたんだ……?」
「え、俺、そういう風に取れる言い方した?」
「さっきのは絶対、片想いしてる奴の言い方だった」
「――しまった、気をつけてたのに」
 頭の中が真っ白になる、っつぅ言葉をこんなに実感した事はねぇ。腹の中が空っぽになった時のような、吐き気にも似た重い気分が喉元までせり上がる。
 南斗の本命疑惑はあったけど、それはあくまで菱井達の憶測だった。本人の口から事実として肯定されたのが、こんなにも衝撃的だなんて思っても見なかった。
 けど、これはチャンスじゃねぇか。前から菱井に、南斗から聞き出すよう言われてたんだし。

「で、誰? お前の好きな子って」
「内緒」
「いいじゃん。教えろよ」
「絶対、嫌だ」
 何度かプッシュしてみたけど、南斗は全然陥落しねぇ。こいつも人当たり良い割に頑固だから、多分口を割らねぇだろう。俺は違うことを訊いてみた。
「告白する気はあんの?」
「無いよ」
「何で? お前もてるじゃん」
「言っただろ、絶対に無理なんだし。告白どころか……知られたら、想うことすら許されなくなる」
 淡々とした口調、硬い声。
 南斗はどんな顔をしてんのか見ようとして横を向いたけど、あいつは俺が見ているのと同じ方向に顔を背けてて無理だった。
「壊してしまうぐらいなら、今のままでずっといたいんだ」

 南斗は、聞いてるこっちが痛くなるぐらい真剣だった。

 こいつは、いつからどんな気持ちでその相手の事を想ってんだろう。告白出来ねぇって思い詰めて、悩んで、辛い片思いを抱えて。
 それでも、一瞬でも相手が見れれば嬉しくて、偶然を神か何かに感謝して、相手の何気ない言動に一喜一憂したりしてんだろうか。「報われない」なんて言ってて、それが事実だとしても、ほんのちょっとでも自分という存在が相手に近づける事を願ってるんだろうか。

――あれ? 俺も最近似たような事考えてねぇか?

 俺らは黙ったまま、石段に並んで夜空を見上げていた。
 予想を楽しんでた菱井には悪ぃけど、俺からはもうこれ以上南斗を問い詰めるつもりなんて無くなっている。寧ろ、南斗が隠し通すつもりだった片思いを知っちまった事に対して罪悪感すら憶えていた。
 きっと、今の片思いが南斗自身の核なんだろう。俺にとっての北極星がそうであるように。

 気分は重いままだったけど、とっくに別々の世界に別れたと思っていた双子の弟の存在が、今夜は中学入学前みたいに互いに近づいてる気がした。

 

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 昼間、「polestars」ブレインストーミング用のメモ帳に書かれた菱井のオッズ表を紹介しようと考えついたのですが、無い! 会社で落とした!? ――デスクの引き出しの中にありました。心底胆が冷えました。