先に動いたのは南斗の方だった。
「こんな時間だ……もう、閉会の準備始めないと」
俺もそろそろ菱井を探しに行こう。あいつ、無事でいられれば良いけど。
石段を降りていくと、グラウンドのちょうど俺らが寝転がっていた場所の真ん前にあたる位置で、女の子が困ったようにうろうろしていた。
「奈良さん?」
俺が声をかけると奈良さんは夜目にも判るほど跳び上がった。俺らを交互に見てどうしたら良いのかわかんない、って感じだ。そりゃあ、俺が間違えられたのはチャラだけど、南斗が彼女を振ったっつぅのは無かった事にゃできねぇ。
この子も結局は敵わない片想いをしてた訳で、それは南斗が別の誰かに恋をしてるのを秘密にしてたからで。そう考えると奈良さんは凄ぇ可哀想なんかもしれねぇ、って思った。
なのに南斗まで立ち止まってるし、俺が不自然な態度しててもやべぇし奈良さんが困るから、世間話を振ってみる。
「そうそう。俺、四組の水餃子食ったよ」
「どうだった? 餃子づくり班、事前に特訓したんだけど」
それでか、あんなに旨かったのは。今日はかなり人が並んでたし、ひょっとしたら四組はアンケート上位に入るかもしんねぇな。
「最高。俺二杯食ったよ」
「良かった!」
「――俺の言った事、ちゃんと実行してくれたんだね」
突然、南斗が奈良さんに向かって言った。
「う、うん」
水餃子の話をしていた時は明るかった奈良さんの表情が瞬時に強張った。もしかしなくても奈良さんが南斗に告白した時、何かあったのかもしんねぇな。南斗は単に断ったってしか言わなかったけど、奈良さんの方は明らかにおかしい。
「奈良さん今ヒマ?」
「ええと、終わるまで友達を待ってるんだけど」
「じゃあこれから踊りに行かねぇ?」
「え、えっ」
俺はちょっと強引に奈良さんの腕を引っ張って巨大ランプシェードの方に走った。
「あのあの、天宮君!?」
「ごめん、何か奈良さん、南斗の近くにいて辛そうだったから」
「気、遣ってくれたの……?」
有り難う、と奈良さんはうつむいたまま言った。俺は未だ彼女の腕を掴んだままなのに気付いて、慌てて手を離した。
「天宮君は良かったの?」
「ああ。どうせ南斗は閉会準備に行くとこだったし、ダチはどっかで踊ってるはずだし」
俺と奈良さんは暫くそのまま見つめあうかたちになって、どちらからとも無く吹き出した。
「じゃあ、踊る?」
「うん」
タイミングよくアナウンスが入った。これから流れる曲が、ラストダンスだ。
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