BGMの最後の一音の余韻が消えた。
「サンキュ、いきなりなのにつきあってくれて」
「ううん、こっちこそダンス中に迷惑かけちゃって……」
「それはお互い様じゃん?」
体育の授業にフォークダンスが入ってんのは二年生だ。俺らは一年だから、下手なのは当然っちゃ当然だった。
「じゃあ俺、友達の菱井探すから」
「うん。さようなら――あまみやくん」
別れ際の奈良さんはもう笑顔だったから、俺は結果的に良い事したっつぅ事になんのかな、って、ちょっと安心した。
菱井は案の定、久保田と壮絶な鬼ごっこを演じていた。勿論、鬼は久保田。っつか本当に顔が鬼のように見えるんですけど。
「天宮ー! 菱井を捕まえてくれ!」
「ほくとぉーっ、頼むっ、久保っちを足止めしてくれぇー!!」
うーん、この場合どっちに加勢したほうが面白いんだろ。
――決めた、俺は傍観者。
俺は何もせずに二人の追いかけっこを観戦することにした。特に菱井からは恨みを吐かれたが、ドップラー効果がかかっていたと思うのは、きっと気のせいだろう。
そう言えば、山口副会長はとっくに何処かに行っちまったみてぇだな。っつか、閉会の準備かあの人も。副会長なのに仕事をさぼりまくってるように見えるけど、こっちは気のせいじゃねぇと思う。
俺、選挙の時、副会長は誰に投票したんだっけか? あの人じゃない事は確かだけど。そういや選挙戦の時、山口副会長は相当キャラ作ってたはずなんだよな。
けど実態があれじゃあ、南斗、普段は相当苦労してんだろうな……。
「久保田ー、菱井逃がすなよー!」
「ほらー、追いつかれるよ菱井くん!」
いつの間にか、俺の周りには後夜祭に出ていた他のクラスメイトも集まってきてて、菱井か久保田の好きな方を適当に応援していた。だいたい男子は久保田派、女子は菱井派って感じ。まぁそんなもんだよな、心理的に。
生徒会長の惣稜祭閉会宣言もあったけど、俺らの中で真剣に聞いてる奴なんて誰もいねぇ。
結局、最後は菱井は久保田に捕まって腕で首を絞められたうえ、面白がった連中からも数発チョップを喰らっていた。
「北斗の裏切り者っ!!」
――俺は解放された菱井から、思い切り膝蹴りをお見舞いされた。
結局、打ち上げはクラス全員揃ってないと意味無いっしょ、っつぅ話になり、今日はとりあえず解散になった。中間も近いから、多分試験最終日に、って事になりそうだ。
「菱井、行こうぜ」
「俺達だけでもどっか寄ってかねー? あ、今日は北斗の奢りだからな」
「え、俺関係無いじゃん。さっきおとなしく蹴られてやったんだからそれで我慢しとけよ」
「あのなー、俺、うちのクラスの文化祭実行委員だぞ。無事終わったんだからねぎらうのが当然じゃねーか」
俺らの初めての文化祭は、委員になってから散々だっ、っつぅ菱井のぼやきを聞かされながら幕を閉じた。
prev/next/polestars/polestarsシリーズ/目次