「――中途入部の方法?」
俺が南斗の部屋に入った時、南斗は勉強中だった。うぇ、数Tか。図形系って面倒なんだよな。
南斗の部屋は俺のより断然片づいているけど、床面積は狭い。昔は居間にあった、スライドするガラス戸棚付きのデカい本棚を南斗が貰ったからだ。俺は隠してる星の本以外、普段は漫画ぐれぇしか読まねぇけど、南斗はハードカバーの小説本とか色々読むから、表側の戸棚の中だけでもそういう文学の本とか参考書とかがぎっちり詰まっている。
「北斗、部活やるの? どこの部?」
「別にいいだろ、企業秘密だ」
「運動部? 文化部?」
「だから秘密だって」
「……まぁ、いいけど。中途でも通常通りの入部届に名前書いて、顧問の先生に渡せばいいから。フォーマットは確か生徒会のパソコンにも入れてたかな」
へぇ、生徒会室にゃパソコンまであんのか。案外ハイテクだな。今時は字が汚くても書記は務まるのかもしんねぇな。当然、南斗は字も綺麗だけど。
「今度打ち出しておくけど、タイミング悪いんじゃない?」
「何で?」
「そろそろ中間じゃないか。北斗は試験勉強してる?」
げっ――心の底から忘れてた。
「今の時期に部活始めて熱中して、成績下がったら母さんうるさいんじゃないの?」
俺の成績は真ん中も良いとこで、いつも南斗と比べられて母さんにぶちぶちと文句を言われている。天文部は帰りが遅くなる可能性もあるし、確かに少しでも順位下がったら絶対に部活が原因って説教されるだろうなぁ。
普段から勉強なんて単語とは縁遠いけど、関係ない幸崎先生のせいにされるのだけは嫌だ。
「わかったよ、出すのは中間の後にするよ。でも紙は忘れる前にくれよな」
「オーケー」
頼まれ事を承諾するときの南斗の表情は演技みたいな笑顔で、いつもやってて疲れないのか、なんて俺はふと思ってしまった。
「北斗、お前何部に入んの?」
「ぶほっ!!」
……やべ、牛乳が顎に垂れた。
「な、何でそんな事!」
「だって北斗は部活始めるんだろ?」
俺、菱井に部活の事言ったっけか? でもこいつの態度は凄ぇ自身満々だし、多分言ったんだな、俺。幸崎先生すら驚かせたくて、入部届出すまで誰にも言わないどく予定だったんだけどなぁ。
「天文部」
「え、そんなんあったっけ?」
「文化祭のパンフで知ったんだよ。お前パンフ係だったんだろ、大丈夫か?」
「俺の担当は広告欄だっつーの。で、何で?」
「星が好きなんだよ」
「なにそれ、初耳」
そりゃあ、今度こそ間違いなく、バラすのは初めてだからな。
「これは重大な秘密なんだからな、親にも南斗にも言ってねぇんだから。知ったのはお前が二人目だ」
「え、じゃー最初の一人って?」
「天文部の顧問」
俺は菱井に、誰にも部活のことは絶対言うなと何度も釘を刺した。菱井は実はこういう事に関しては信用出来るから、南斗に俺の秘密が流れる心配は無いだろう。
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