「学生ってゆ−のは、こう、試験で季節を知るように出来てんだよな」
菱井はぼやきながら試験範囲が書かれたメモをシャーペンで突いている。
「年に五回だもんな。それに実力テストなんてもんが間にあるし、しょっちゅうテストばっかり受けてる気がするぜ」
学生の本分は勉強です、って言われたって、面倒なもんは面倒だ。
「大学生は年二回だろ? いいよなー早く大学生になりてー」
「世の中には就職試験ってもんもあるんだぞ。社会人になるまでは安心出来ねぇぞ」
「そーか、社会人か。俺何の職業就くんだろう」
「そんなん、俺に訊かれても」
「じゃー、北斗は?」
「さぁなぁ。俺も特に何かに優れてるってわけじゃねぇし、その時になんねぇと判んねぇと思う」
多分、選ぶっつぅより消去法だろうな、俺の場合。南斗ぐらい頭良ければ、選択式の将来もアリかもしんねぇけど。
「話変わるけど、北斗って勉強どうしてる?」
「別に、普通。学校行って宿題するぐらい」
菱井は急に微妙な表情になった。おぉ、その顔だったら百面相に連勝できそうじゃね?
「何にやついてんだよ、北斗」
「いけね、俺が百面相に負けた」
「は?」
「まぁ、たまに家で教科書読んだりするけど、視線がこう、上っ面を滑るばかりで頭の中入らねぇんだよな。論理的思考力ねぇんだよ」
「……よくウチに受かったねー、北斗」
「あん時はホント死ぬかと思った。強制的に塾入れられたし。受かったら即やめたけど」
多分、大学受験の時はまた入る羽目になるんだろうな。下手したら一、二浪ぐらいするかもしんない。
まてよ。そういう事態になったら、やっぱり部活のせいだって事にされるんじゃねぇか? 幸崎先生の俺に対する評価も落ちるかも――そいつはちょっと、避けてぇな。普段からもうちょっと真面目にしといた方が良いかもしんねぇ。真面目に勉強すると言えば……
「そうだ、図書室」
「はい?」
放課後、俺と菱井は図書室にいた。
「何でいきなり図書室?」
「自習っつったらここだろ」
「お前の親友になって半年、その口から自習なんて単語聞くのは初めてだよ」
「そりゃ、今回から生活態度改めることにしたんだし」
菱井は俺の額に手を当て、「熱あんの?」なんて言いやがった。ヘッドバッドでお返ししてやろうかと思ったが、ここは図書室。静かにしてねぇとつまみ出されちまう。
俺がここに来ることにしたのは、幸崎先生がよく図書室を利用してる事を文化祭の時に聞いたからだ。
教師と仲が良い生徒が職員室に遊びに行くことは珍しくねぇけど、理科の科目が化学しかねぇ一年が地学教師を訪ねるのは、それこそ部活に関係が無い限り不自然だ。試験が終わって晴れて天文部員になれるまでは、偶然を利用して先生の姿が見れれば良い、と俺は考えていた。
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