「北斗、最近帰りが遅いのね」
「放課後は勉強してるから」
「べんきょう!?」
……何だよ、自分で訊いといてその反応はねぇだろ、母さんめ。
「北斗、俺と勉強すればいいのに」
「俺と南斗とじゃ勉強ペースまるで違うだろうが」
南斗は塾に通っていない。恐ろしいことに、学校の教科書と買ってきた参考書、通信教材だけでトップの成績を維持している。
「俺は菱井とそれなりに自分に見合った勉強するし」
「――菱井君と?」
何だ、南斗の奴。変に難しい顔してるな。友達と勉強するって普通だよな? こいつだって、いつも家で勉強してるけど、たった今俺を誘ったばっかりだし。
「まぁ、解らないところあったら遠慮無く訊いて。教えるのも勉強になるから」
まるで、学校の勉強じゃ自分に解んねぇとこなんて無い、って態度だな。むかつく。
「まぁ! 南斗が教えてくれるなら大丈夫よ。どんどん質問しちゃいなさい」
母さんも、南斗の提案がさも名案だといった感じで俺を見る。冗談じゃねぇよ、まったく。
俺の試験勉強スタイルは相変わらずだ。真面目というか真面目じゃないというか、まぁ試験範囲はとりあえず読んでいる。そんな感じ。
「くそっ、化学むずい……」
「菱井、貸してみ」
菱井が詰まっていた問題は、この前幸崎先生に説明してもらったとこだった。先生の言葉を思い出して、菱井に解説してやる。
「――と、ここをこうすれば、出来ただろ?」
「ほんとだ。すげー、お前化学って得意だったっけ?」
「寧ろ嫌いだったけど、今回だけはバッチリだぜ。俺が出来るとこなら教えてやれるよ」
「マジー!?」
「教えるのも勉強、ってな」
南斗からの受け売りを言ってみた。菱井はまだ信じられねぇものを見てるって目をしている。
「北斗がおかしい……絶対におかしい」
「あ? 化学限定だぞ。他の教科はいつも通りさっぱりだぜ」
「だからそれだけでも十分変なんだってば、お前。何で急に化学だけやる気になってんのよ」
「こないだ解らないとこ教えてもらってさ。一旦、理屈が理解出来りゃ問題は解けるよ」
「……」
「こら。図書室では静かに」
「あ、いけね――すんません」
いつの間にか幸崎先生が俺らの後ろに立っていた。けど、菱井がいるからなのか、先生は「頑張ってね」とだけ言って立ち去ってしまった。
「北斗、今の先生って誰?」
「地学の幸崎先生。天文部の顧問だよ」
「あー、前にお前が言ってた」
菱井はやたら感心していたが、俺はあまり面白くねぇ気分だった。
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