「北斗、ゴミ出して。捨ててくるから」
南斗に鯛焼きが包まれていた紙を渡す。俺はまだ無言のまま、店の前のゴミ箱の方へ歩いていく南斗の背中を見ていた。
面白いようなタイミングで、うちの制服を着た数人が俺達の間に入り込んだ。
「天宮君?」
呼びかけは、勿論俺ではなく南斗に向けられたものだ。
「あれっ、ほんとだ。天宮じゃん。何で私服なん?」
「一旦家に帰ったからだよ。大木達こそ、こんな時間まで制服で何してたんだよ」
「中間終わったから、鬱憤晴らしって事で遊んでたんだよ。あ、一応健全な範囲で!」
この男見覚えあるな。ああ、やっぱりこいつら八組の連中か。
それにしても、こんな短距離なのに見事に俺のこと眼中に入ってないな。最初から店側向いてたのもあるけど、ここまで来るといっそすがすがしい。俺は黙って見ている事にした。
「ひょっとして鯛焼き食べてた? 意外〜」
「言えてる。何か天宮のキャラじゃないって言うか」
「酷いな、昔から大好物だよ?」
「えー? 天宮君はどっちかって言うとジェラートとかの方が似合いそう」
おいおい、夏じゃねぇんだから、そんなもん食ったら寒くて仕方ねぇよ――と心の中だけで突っ込んでおく。
南斗は綺麗な苦笑いだけを返した。そんなもんあんのか、って感じだが、俺にはそうとしか表現出来ない。
「天宮、これからどうすんの?」
「あたし達はまたどっか入ろうかなー、って思ってるけど、来る?」
「いや、帰るよ。北斗がいるし」
へっ、って間抜けな声が聞こえた。
俺に視線が集中したから、ども、とだけ呟いて軽く頭を下げた。
「北斗、乗れよ」
「いいよ、ちょっと歩く」
南斗がクラスメイト達に別れを告げてる隙に、俺は先に一人で歩き出した。
「――何で先に行っちゃうかな」
「学校の奴の前でお前と二ケツしてるとこなんて見られたくねぇよ」
想像するだけで物凄ぇ恥ずい。
「もう、いないから大丈夫」
俺が再度自転車の荷台に座ると、南斗はさっき以上のスピードで飛ばした。
「お前、ジェラートが似合うって言われてたな」
「何、急に。さっきの聞いてたのか?」
「そう思われてそうだ、ってのは知ってたよ……ずっと」
「休み明けたら入部届出すんだろ?」
南斗が話題を変えた。こいつの言うとおり、いよいよ俺は天文部に入部出来るってことだ。
来週には幸崎先生ともっと話せるようになるんだ。
「もし、試合とか出るようになったら応援行くよ」
「俺、どの部に入るか言ってねーじゃん」
「演奏会や発表会? 展覧会? 何であれ、行くから構わない」
掛け持ち部員ばっからしい天文部が活動内容の発表するのは、せいぜい文化祭ぐらいしかねぇだろう。
一年はかかるぞ、とだけ俺は言った。
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