朝、起きてカーテンを開けると、空には雲一つ無かった。
俺は鞄を開け、中に入部届がちゃんと入ってるか確認した。これを放課後、幸崎先生に渡せば俺は天文部員になる。
空の青の向こう側に隠れている星が瞬いているような気がした。今日はきっと、良い一日になる。
南斗は先に朝メシを食っていた。その背筋がピンと張ってる事に俺は気付く。いつも何かに座れば背中を丸めちまう俺とは対照的だな、と思った。
「……はよ」
「おはよう」
パンが焼けてくるまでの間に野菜を食べながら、俺は南斗に訊いた。
「お前さぁ、何で生徒会選挙出ようって思ったん?」
「え? 実は、出てくれって頼まれたからなんだけどね。交換条件みたいな感じだけど、学級委員やってたし、仕事に興味あったから。でも急に、何で?」
「そういや知らなかった事、今思い出したから」
南斗が何か言いかけたとき、俺の背後からふわぁ、なんて父さんの間抜けなあくびが聞こえた。会話は中断され、良いタイミングでトーストが出てきた。
「北斗、ハチミツ」
ハチミツのチューブを南斗が渡してくれる。
「お前ってトーストにはバターしか塗らない派だったよな?」
「そうだけど」
疑問に思ったこと無かったけど、いつも南斗から渡されたチューブの蓋は開いてなかったか?
南斗はさりげなく優しい。鈍い俺と違ってよく気が利く。そこに完璧な笑顔がプラスされたら無敵なんじゃないだろうか。
「……ホントに今更だけど、マジ、優等生で王子様なんだな」
ここは南斗に訊かれても俺が恥ずいだけなので、かなり小声にしておいた。
「どうしたの、お前」
下駄箱で顔を合わせた菱井は開口一番そんなことを言ってきた。
「何だよ」
「北斗が天宮南斗と仲良く登校すんの、文化祭以来じゃん」
「よく憶えてるな。俺は忘れてたぞ――まぁ、今日はたまたま、っつぅか」
「――正直に吐けよ。こないだ何かあったのか?」
菱井が言ってるのは、菱井といた俺が南斗と一緒に帰った時の事だろう。興味本位、っつぅよりは、菱井は俺を心配してくれてるようだった。
「いや、悪ぃ、っつぅ感じの事は何も。単に兄弟だって事実を認識しただけ?」
「なんだそりゃ」
菱井は首を捻っている。俺にも解んねぇんだけど。
「おう天宮。機嫌よさそうだな」
ことある事に、クラスのいろんな奴に声を掛けられる。
「久保田。俺ってそんなにあからさま?」
「うん、すっげぇ」
「天宮君の表情、浮つきすぎて被写体には、ちょっとねぇ」
「緑川……その手のカメラは一体何だ」
「少々試し撮りを。写りがどうなってるかは現像してのお楽しみだよ」
うふふ、と笑う緑川の不気味な声に俺は背筋が寒くなった。
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