緑川が昼休みに特急で現像したっつぅ写真の俺は、確かに弛みきった表情をしていた。あいつみんなに見せびらかすんだもんなぁ、菱井なんて笑いすぎて涙が出てたぞ、おい。
けど、今の俺は写真と同じ顔をしてると思う。一回深呼吸して、俺は職員室の引き戸を開いた。
職員室にはよほどの用事がない限り入らない。先公達は俺の顔を見て、少し考え込んで、何かを納得して自分の作業に戻る。
南斗は生徒会書記だからしょっちゅうここにゃ来てるんだろうな。それで、同じ顔でも髪の色が違う俺を見て一瞬混乱したんだろう。
先生の机の並びはほぼ教科毎に纏められているらしい。だったら幸崎先生の机は、っと……あ、あれ、化学の荻野だ。きっとあの近くだろうな。
俺は荻野のいる辺りまで近づいたけど、幸崎先生らしい姿が見あたらない。
「あの、荻野センセ」
「ん? 一組の天宮か。お前今回のテスト頑張ったなぁ。先生見直したぞ」
「今回自信アリっすから」
「ここだけの話だけどな、ちょっと耳貸せ」
荻野が教えてくれたテストの点数は93点。勿論、定期試験でこんな点数なんて生まれて初めての快挙だ。
「で、どうした。化学に目覚めて質問にでも来たのか?」
「いや、幸崎先生探してるんですけど」
「幸崎先生を?」
「ちょっと、部活のことで」
あぁ、と荻野は大きく頷きながら言った。凄ぇ納得してる、って感じだ。
「幸崎先生なら、理科棟の地学準備室にいるはずだぞ」
「ありがとう、センセ」
地学準備室は俺が幸崎先生に勉強を教えて貰った場所。今年設立された天文部は、部室棟に部屋持ってねぇはずだから、多分あそこが部室代わりなんだろうな。
戸棚だらけの準備室はそのままだと薄暗いから、人がいるときはだいたい電気が点いている。地学準備室の扉の窓は明るいから、先生は間違いなく中にいるはずだ。
『……。――、…。』
何か、中から話し声がするな。他に誰かいるのか? ひょっとして他の天文部員が来てるんだろうか。
しまった、部活動が何曜日にやってるか、事前に訊いとくのすっかり忘れてた。くそ、間抜けすぎじゃん俺。
でも、どっちにしろ他の部員とは顔を合わせなきゃいけないんだし、都合が良いっちゃあ、良いのか。本当は先生と二人きりの方が嬉しかったけど。
俺は左手の入部届を確認して、準備室の扉を開けた――。
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