INTEGRAL INFINITY : polestars

 視界は歪んでて、頭ん中は凄ぇ混乱してて、何考えりゃいいのか全然解んなくて――でも脚だけは確実に家へと向かっている。
 下駄箱で上履きから履き替えるのに手間取って、もどかしくて苛々した。昇降口の床に何滴か涙が落ちた。
「……くそっ!」
 やっとの思いでスニーカーを履き、俺は校門に向かってがむしゃらに走った。
「えっ、お、おい北斗!」
「天宮君!?」
 何人か、俺の知ってる奴の声が聞こえたけど、俺は決して立ち止まらなかった。

 家のドアを乱暴に開け、脱いだスニーカーを乱暴に放り出す。そのまま二階への階段を駆け上がった。
「誰!? 家の中を走らないで!」
 母さんの声も俺は無視する。俺は今、どうしても確かめたい事しか頭になかった。
 開けたドアは俺の部屋のじゃなく、本人がいる時すら滅多に入んねぇ南斗の部屋。
 その奥の、居間から移された大きな本棚の、可動式棚のロックを外して動かし、裏を見た。

「はは…は……は……」

 自分の口から出た、このしゃがれた声が笑い声とは思いたくない。でも「笑う」と言う行為しか何故か出来なかった。
――隠されていた場所には全て、天文関係の本や関連の参考書が詰まっていた。俺が隠してた奴のようなレベルじゃなくて、こんなの大学生以上が読むんじゃねぇのか、ってレベルのものばかりだ。
 俺が知らない間に、南斗は本格的に天文の勉強をしてたんだ……。
 ヒビの入った心が、粉々に砕け散った。

「……もしもし」
『北斗! おい、さ、さっきお前、すげー顔で学校から走り出てっただろ!? 何があった?』
「ひしい――っく…うっ……ぁっ」
 携帯から聞こえてくる菱井の声は俺の涙腺を完全に弛ませた。嗚咽が出てくるばかりでまともに言葉が出てこねぇ。
『ひょっとして泣いてんのか!? 辛いことあったんならいくらでも話聞くから、北斗、俺の家来るか?』
「んっ……い…く……ぇっく」
 菱井からの電話を切った俺は、鞄を自分の部屋に置いて携帯と財布だけ持って家を出た。涙でぐちゃぐちゃの顔はそのままにしていた。拭うって事は、全然思いつかなかった。

 菱井は、家の前で俺を待っていた。
「近くで見るとホントひでー顔だな。明日は瞼が腫れ上がってんじゃねーの?」
 冗談っぽく言ってるけど菱井の顔は優しくて俺を気遣ってるのが解って、俺の両目からはまた涙が溢れてきてしまった。
「おいおい、流石に天下の往来で大泣きはやべーよ。ほら、俺の部屋行くぞ」
 菱井に手を引っ張られて、俺はこいつの部屋に入った。
「もう我慢しなくていいぞー、とりあえず気が済むまで泣けよ」
 おーよしよし、と言って、赤ん坊をあやすみたいに菱井は俺の背中を撫でた。
「ふっ、うああああっ……!」
 俺は菱井にしがみついて、言われるがままにただ、泣き続けた。

 

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 実際に、書店でどのような天文の本が手にはいるのか見に行ったら(そして日本星名辞典買ったんですが)ホーキ○グさんの本が出ていて懐かしい気持ちになりました。