INTEGRAL INFINITY : polestars

 俺……中学上がったら南斗に何にも勝てなくなってて、親も学校の連中も、告白してきた女の子もみんな南斗ばかり見て、俺優秀じゃないから仕方ねぇ、って諦めてたけど、昔ガキの争いで「北にしか北極星は無い」って言ってあいつに勝ったってことが、くだらなくても一つでもそんなのが俺にある、ってことが支えだったんだ。
 図書室でお前待ってる時に幸崎先生に出会って、いい人っぽい、って気に入って、先生が天文部の顧問って事知って凄ぇ嬉しかった。先生と星の話してるときは、俺は俺だって思えたから、だから天文部入ろうって思ったんだ。

 でも天文部には南斗が入ってて、あの部は自分のだ、入部なんて許さねぇって言われて押さえつけられて……幸崎先生は南斗の事知ってて、それはあいつが書記だからじゃなくて天文部員だからで、俺全然そんなこと知らなくてさ。俺が文化祭で天文部見に行ったこと内緒にして、って頼むずっと前から南斗は先生に自分のこと俺に言うなって口止めしてたんだよきっと。先生は俺との約束も守ってくれたけど、俺と南斗を比べられるのは嫌だろうって言ってくれたけど、じゃあ自分は? って今までの先生の言葉全部疑っちまって、良い先生なのにそう思っちまう俺が嫌で――。

 家に速攻帰って、南斗の本棚見たら全部天文の本だったんだ。参考書や赤本まであって、あいつめちゃくちゃ真剣に、将来天文学やろうって考えてたのが解って、それが一番ショックだったんだよ。
 星が好きなことが俺のたった一つの自信だったのに、それも南斗に勝てなかった。結局、何一つだって南斗より真剣だって言えるもの、無かった。俺、何にもないんだ……。

 興奮で声が裏返って上手く喋れなかったけど、菱井は俺の話が終わるまで横やりの一つも入れずに黙って聞いてくれた。辛かったな、とだけ言ってくれた。
「ホント、もう俺、お前だけだ……」
「その台詞、女の子に言われたんだったら即落ちるね」
「悪かったな、俺が男で」
「ちゃんと解ってるって。こういう時に頼られるの、親友冥利に尽きるよ」
 軽い口調なのがかえって嬉しい。俺も、菱井と親友で良かった。

「北斗。携帯鳴ってる」
「ああ……」
 ディスプレイを見たら、着信は南斗からだった。俺はオンフックボタンをグッと押してそれを無視した。少ししたらまたかかってくる。また俺は切る。何度か繰り返す。
 面倒になった俺は南斗の番号を着信拒否に設定した。けど、家からとか、俺の知らない奴から携帯借りてまでかけてくる可能性もあったから、最終的には携帯の電源を切った。
 南斗とは話したくない。あいつの言うこと、今は何も聞きたくない。
 絶対に顔を合わせる羽目になると思うと、家に帰るのも嫌だった。

 

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 オンフックとオフフックをよく混同します。昔ながらの、受話器と本体がコードで繋がれてるやつをイメージすれば理解できますが、携帯だとねぇ……。