「それで、これからどーすんの、北斗」
「――家、帰りたくねぇ」
菱井に話を聞いて貰ってかなり落ち着いたけど、腹が立つ、っつぅよりもっとドロドロしたものが俺の中にあって、今南斗と顔を合わせたら、俺はわめくのか暴れるのか、何すんのか解らなかった。あいつにはどうしても会いたくない。
多分、親にも怒られると思う。でもそんな事なんてどうでも良かった。
「そう言うと思ったよ。ま、ゆっくりしてけ。あんなに泣きまくったんだし、疲れただろ?」
「うぅ…急に頭痛くなってきた……目も熱い」
「氷枕、あるよ?」
「どぅわあ!?」
いきなり菱井は俺を引きはがし、反動で俺は後頭部を床に打ち付けた。やべぇ、頭痛悪化する。
「か、可奈! いきなり人の部屋入ってくんなよ!」
「お母さんに頼まれてお茶持ってきてあげたのよ」
「ひ、菱井、この子は……?」
「はじめまして。菱井可奈子です。こっちの良介の妹です♪」
これが菱井の妹? うわ、似てねぇ。かなり可愛いじゃん――でも、何か落ち着かねぇ。山口副会長と同じニオイがする、気がする。
しかも可奈子ちゃん、妙に嬉しそうな顔で俺ら見てんだけど。
「はい、どうぞ」
可奈子ちゃんはタオルに包んだ氷枕を渡してくれた。瞼にそっと押し当てると気持ちいい。
「用意良いな、可奈」
「だって、リビングまで聞こえてたよ」
「聞こえてた、って――」
ちゃんと確認するまでもなく、俺の泣き声の事だろう――うわ、ヤバイ。めちゃくちゃ恥ずすぎて、マジ死にそう。
「えっと、天宮北斗さんで良いんですよね?」
「お、俺の名前知ってるんだ?」
「お兄ちゃんがよく話してますから。じゃあ、お茶ここに置いておきますね」
可奈子ちゃんは持っていたトレイを背の低い丸テーブルに置いて、この部屋から出ていこうとした。けどドアの一歩手前で立ち止まる。
「あ、お兄ちゃん」
「何だよ、可奈」
「菱井家は私が婿取ってちゃんと存続させるからね」
「アホかぁーっ!! 俺だって可愛い嫁さん貰うのが夢なんだよっ!」
……俺、耳まで痛くなってきた。
可奈子ちゃんが持ってきたアイスティーを飲みながら、俺らは実に気まずい雰囲気を味わっていた。
「なんつぅか、あれが菱井の妹さんなんだ」
「一応……」
「いま何年生?」
「中三」
彼女、受験生なのか。それはちょっとまずい。
「菱井。俺、帰るよ」
「え? 帰りたくねーんじゃなかったのか?」
「考えたらさぁ、いきなり家に押し掛けて泊まっていきます、っつぅのもお前の家族に迷惑かけるじゃん。妹さんがいてしかも受験生なんて、俺の存在自体邪魔かもしれねぇし」
お前が家に帰っちまうほうが心配だよ、と菱井の方が情けない表情になった。
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