「おいっ菱井どういうことだ!? 会長って思い切り南斗側じゃねぇか! っつぅかお前が会長と知り合いだなんて知らなかったし!」
畏れ多くも会長がキッチンでコーヒーを淹れてくれている間、俺は菱井を問いつめていた。
「――あれが、さっき言った俺の『比較対照』だよ」
「えぇっ!? だって相手は海外行った、って」
「高校入る前に戻ってきたんだよ。前の家と場所違ったから、俺だって偶然惣稜に入ってから知ったんだ」
「じゃあ、お前と会長ってホントに幼馴染みなんだ……」
「俺が黙ってた理由、北斗なら何となく解るだろ」
確かに、小野寺会長ほど「完璧」って言葉が似合いそうな人はそうはいねぇだろう。うちの学校じゃ、実力も人気も威厳も桁違いだしな。
「俺とス……会長の事を知ってるのは、うちじゃ山口先輩だけだ。あの二人ってさ、実はいとこ同士なんだよ」
何だよ、今日だけで随分と新情報がインプットされてくな。
あ。だからか、後夜祭の時に山口副会長がこいつを「ヒッシー」なんて呼んでたのは。
「そう言うわけだから、うちの天宮もまさか良介が俺を頼っているとは思いもしないというわけだ。ほら」
会長にマグカップを差し出され、俺は慌てて受け取る。
「に、しても酷いな。腫れているのがはっきり判る」
「すんません。さっき凄ぇ泣いたから……」
「良介からはお前と天宮が喧嘩をした、というぐらいしか聞いてないが、とうとう天文部のことがばれでもしたのか」
天文部の事、何で会長が知ってるんだ? しかも「とうとう」って?
俺の思った事は全部顔に出てたらしい。訊く前に会長の方から喋ってくれた。
「俺も天宮と同じ天文部員だからな」
「えーっ!?」
俺より先に菱井の方が声を出したけど、気持ちは俺も一緒だ。まさか会長が天文部員だったなんて思いもしねぇよ。
「と言うより、生徒会役員は全員天文部に入っている。当然、郁美も酒谷もな。人数が足りない分は生徒会OBに名前を貸して貰っている」
「じゃ、じゃあ天文部の部長って小野寺会長なんですか?」
「いや、俺達はあくまで天文部を成立させるために存在している幽霊部員にすぎない。部長は天宮だ」
「南斗が部長なんですか!?」
「生徒会選挙に出て役員として協力し、来年は俺の後継として生徒会長に立候補して貰いたいと要請した時、あいつから交換条件として天文部の設立を要求されたんだ」
俺は南斗のが前に言ったことを思い出す。
『実は、出てくれって頼まれたからなんだけどね。交換条件みたいな感じだけど』
『天文部は俺の……俺が作った、俺だけの世界なんだ!』
「もう一つの条件は、天文部の存在を天宮北斗に知られないこと。新入部員勧誘時期の後に設立された部だから、俺達部員が黙っていれば四月までは保つと思っていたんだがな」
薄々感じていたとは言え、他人の口から改めて聞かされるとかなりショックだ。
「どうして……」
「さぁな。その理由だけはどうしても口を割らなかった」
本当かよ、と菱井が食ってかかったが、会長は全然動じていなかった。
「幸崎なら知っているかもな。顧問と部長という関係以上に仲が良いから」
いつかは出る、って解ってたのに、それでも幸崎先生の名前を聞くと苦しい気分になった。
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