INTEGRAL INFINITY : polestars

「遭いたくない」
 俺は即座に断言した。
「今日はまだ、南斗の顔見たくねぇよ」
「お前……」
 どうしても、嫌だった。幸崎先生にあんな顔ができる南斗――今、あいつを見たら思い出しちまう。
 もうあいつの事なんて何も解らない。南斗を、見たくない。
「わかったよ。北斗は裏門回って芸術棟から渡り廊下通って校舎に入れ。正面は俺が何とかするよ」
「菱井、お前絶対に南斗に疑われてるぞ」
「大丈夫だよ。昨日家出る前に可奈を買収して、俺達が家出たあとにうちにかかってきた電話に全部出るよう言っといたんだ。お前は来なかった、って天宮南斗に言ってもらうためにな」
 頭良いだろ? と菱井は得意そうに言った。確かに、その発想力を普段から発揮してたらキレ者の称号をゲットしてたかもしんねぇな。
「北斗、スポーツバッグだけ頼む。これ、俺が持ってるとあいつに追求されると思う」
「わかった。どうせ俺は鞄ねぇし」
「じゃあ、健闘を祈る」
「お前もな」
 俺らは掌を打ち合わせて、俺は裏門に向かって駆け出し、菱井はそのまま正門を通っていった。

「天宮っ!」
「昨日一体何があったんだ!?」
 教室に入った俺はいきなり久保田達から激しい追求を受けた。
「昨日もう一人の天宮からウチに電話あったんだよ。お前来てないか、って」
「そうそう。天宮、菱井んちに遊びに行ってたわけじゃないんだろ? 部活も委員会もやってねーし、どこ消えたかわかんなくなっちまった、って」
 南斗は本当に連絡網を頼りにクラスの男子に絨毯爆撃を仕掛けてきたらしい。それに、どうやら菱井の作戦も上手くいったみたいだ。
「ほんとにお前、昨日どうしてたん?」
「――北斗。何とか巻いてきたぞ」
 俺より遅れて菱井が教室に入ってきた。その言葉に久保田達の視線が菱井に集中する。
「やっぱ相当疑ってたっぽいけどな。ギリギリまで昇降口でお前を待ってるつもりだとよ」
「何だよ、やっぱり昨日天宮は菱井といたのか?」
「こいつ、天宮南斗と壮絶な喧嘩したんだよ」
 何て言ったらいいかわかんなくなってた俺に代わって、菱井がみんなに説明した。
「それで北斗めっちゃキレてて、天宮南斗の顔も見たくないんだってさ」
「……マジ?」
「ああ」
「だからさぁ、みんなも協力しねーか?」
 みんなは暫く顔を見合わせてたけど、橘が「面白そうじゃん」と言ったのをきっかけに、俺の逃走に力を貸してくれる方向で団結した。
「女子も、書記の天宮にバラすなよ」
「えーっ? 天宮君が可哀想じゃない」
「こいつだって『天宮』だよ。俺達のクラスの天宮を助けるのが当たり前じゃん」
「そっかぁ、そうだよねぇ。本人が会いたくないって言ってるんだもんね」
 俺は菱井が昨日言ってた事を思い出し、実感していた。一組の連中はもう、俺を「天宮南斗の片割れ」じゃなくて、一人の「天宮北斗」として接してくれてるんだ。

 

prev/next/polestars/polestarsシリーズ/目次

 自分が責任を持つことには消極的でも妙な団結力を発揮する一組(笑) 今回の件については面白がってるだけっぽくも見えますが、北斗が感じたことは本当です。