ホームルームが終わった直後、菱井は俺に身を隠すよう言った。
「一限始まる前に天宮南斗がこっちに来るぜ、絶対。八組と一組は離れてるけど――早く!」
「天宮、ベランダ出て二組に逃げろ!」
久保田に背中を押されて俺はベランダに追い出された。仕切りを乗り越えて二組の領内に入る。そこには二組の男子が待っていた。確か久保田と同じ部活の奴だ。あいつと一緒にいるのを見た事がある。
「久保っちからメール貰ってるから。ここはいつでも使って良いよ」
「ありがとう」
そいつが教室内に戻ったあと、俺は可能な限り目立たないよう排水管に背中をぴったりくっつけて息を殺した。
暫くして、久保田が俺を呼びに来た。
「向こうの天宮帰ったぞ。そろそろ先生来るから戻れ」
「わかった」
一組に戻ったら、俺の机の上に鞄が乗っかっていた。
「これ、南斗?」
「そう。菱井が代わりに受け取ってた」
その菱井は自分の机に突っ伏して爆睡していた――大丈夫かよ、おい。
俺は休み時間が来るたびに二組のベランダに逃亡した。南斗も諦めずに必ずうちのクラスにやって来たらしい。ベランダに出てこられたら終わりだから、久保田のダチに頼んで三限終了後の休みは二組の中に入れて貰った。
四限の途中、俺のところに手紙が回ってきた。
『昼休みはどうするんだい?』
緑川からだった。同じ紙に返事を書いて、回す。
『決めてない』
いつもなら教室か学食で菱井と昼メシを食うんだけど、そうすると確実に南斗に見つかる。屋上とかはあまりにベタすぎてすぐにバレるよなぁ。かと言って、飲食できそうなとこで他に俺が逃げ込める絶好の場所が思いつかねぇ。移動に手間取っちまったらそれこそ向こうの思うツボだ。
暫くして、緑川から返信が来た。
『なら、我等が写真部の部室に来ないかい? 昼食はボクのほうで確保しておこう』
『サンキュー』
願ってもねぇ提案だったから、俺は乗った。
『買ってくる物の希望は?』
『パンなら何でも良い』
俺は菱井に昼の件を伝える手紙を書いて回した。
『俺は天宮南斗対策で教室残るよ。あんま長距離歩きたくねーし』
『まさか、まだ腰痛いのか?』
それに対する菱井からの返事は無かった。
写真部の部室、って言えばつまり写真現像のための暗室ってわけで、晴れの日の昼間だと言うのに部屋の雰囲気そのものが薄暗かった。黒いカーテンがびっちり閉められていて、電灯がついているせいだ。何か薬剤っぽい臭いも感じるし。
「……でも、ここなら見つかんなさそうだよな、外から見えねぇし」
「ボクは購買に行って来るから、暇だったらその辺の写真集でも見てるといい」
「他の部員が来るってことは?」
「昼休み返上で現像したいという人がいれば。けれど、一年八組出身の部員はいないよ」
「なら、大人しく待ってる」
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