緑川が購買に行ってる間、俺は言われたとおりに本棚に入っている写真集を引っ張り出して、読んでいた。田舎の風景の写真集で、古いやつなのに凄ぇ生き生きとした色合いを感じる。緑川のせいで生徒の激写ばっかり撮影してる印象の写真部だけど、こういう真面目なやつも撮影するんだろうか。
読み始めて五分ぐらい経ったとき、部室のドアが開く音がした。緑川のやつ、やけに帰ってくるの早いな。
「あれ……? 天宮君?」
「え。もしかして、奈良さん?」
「びっくりしちゃった。どうしてここにいるの?」
「クラスの奴が昼買ってくるって言うから、ここで待ってるんだよ」
「一組だから、緑川君ね。珍しいなぁ。初めてかも、彼が友達呼んでくるなんて」
奈良さんはもう、俺と南斗とを混同しなかった。
「奈良さんは写真部なんだな」
「うん。あ、その写真集、良いでしょう?」
その写真家のファンなの、と言って奈良さんは可愛く笑った。彼女には確かに風景写真が似合うと思う。
「こういう写真、撮んの?」
「プロに比べたら本当に全然駄目だけど……」
そのうち見せてよ、なんて会話してたら、今度こそ本当に緑川が戻ってきた。
「おや? 天宮君、奈良女史と随分仲が良さそうだね」
「お。何買ってきてくれた?」
「ボクの分も含めて適当に何種類か買ってきたから、好きなのを選んでくれたまえ」
「二人とも、ここでお昼食べるの?」
「ああ。奈良さんも混ざる?」
「……一応、持ってきてたから。天宮君と緑川君が良いならご一緒させて貰おうかな」
そう言えば奈良さんは手に小さな弁当箱を持っていた。あんな量で足りるなんて、女子って便利だな。
俺と緑川と奈良さんは部室内の椅子を奥に持ち寄って昼メシを食った。
奈良さんは何かを言いづらそうにしてたけど、おずおずと俺に質問してきた。
「天宮君、あの、えっと、喧嘩してるって本当?」
台詞の「えっと」の部分は、多分南斗のことだろう。
「四組まで噂行ってんだ?」
一組以外で俺らの事がどう言われてんのか、正直気にはなる。
「八組の天宮君、朝早くからずっと昇降口にいたの、どのクラスでも噂になってて。うちの酒谷君がちょっと話を聞いたから、って友達に話してた」
酒谷は確か生徒会の会計で――天文部の一員だ。
「二組への逃亡も危ない綱渡りだったね。五限終了後は作戦変更すべきだよ」
緑川の言うとおりだった。四組は特に早かったけど、昼休みを越えたらどのクラスも同じ情報量を持ってるだろう。それに、二組の誰かから南斗に内通があってもおかしくねぇ。
「そうするの? 天宮君」
「限界あんのは解ってるけど――俺は、ギリギリまで足掻くつもりだから」
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