ラッキーなことに、八組の五限の授業は芸術科目だった。部室棟と芸術棟は離れてっから、南斗の移動中を狙って教室に戻った俺らが見つかる事は無かった。
緑川と話してた作戦変更の必要性については、別のクラスの奴とメシを食ってる連中も感じていたらしい。
「俺、天宮のこと訊かれたぜ。そしたら横から二組の奴がお前のこと喋っちまった。八組の伊庭もいたのに」
「二、三年にも噂が出回ってるよ。もう、誰が八組の天宮君に話すかわかんない状況だと思う」
「とりあえず乗り切らなきゃなんないのはあと一回だよな。近くて隠れやすいとこ、って言ったら――」
話をしていた全員の視線が、教室の一点に集中した。
六限開始のチャイムが鳴って、教卓に集まっていた久保田たちが自分の席に散っていく。
「おーし、授業始めるぞ! ――おまっ、何やってんだ天宮!?」
「……すんません」
教卓の下から這い出たちょうどそのタイミングで、俺は荻野と目が合ってしまった。
また、授業中に手紙が回ってきた。菱井からだ。
『会長からメール連絡。放課後になったら天宮南斗は生徒会室に強制連行するってさ。捕獲員は山口先輩』
俺は菱井に、小野寺会長への感謝の言葉を書いた紙を回す。いくら菱井が会長の幼馴染みだからって、直接は何の関係もない俺にここまで手を貸してくれるなんて。会長にとっちゃ南斗の方がよっぽど身近な存在なのにな。
山口副会長は、多分噂で俺らのことを聞いてるだろうけど、会長の関与に関してはどうなんだろう。もしかしたら気付いてるかもしんねぇけど、何となく南斗には黙っててくれるような気がした。あいつ副会長苦手そうだし。まぁ、俺もだけど。万が一副会長にが南斗にバラしても、それまでのタイムラグで家には帰れるはずだ。
ホームルームも無事に終わり、ラッキーなことに掃除当番でも無かった俺は、すぐにでも家に帰るつもりだった。流石に二日以上無断で家を空けるわけにはいかねぇからそれは仕方ねぇけど、南斗が帰ってくるまでの時間で何らかの心構えはつくだろう。
「北斗ごめん。一緒に帰った方が良いと思ったんけど、呼び出しかかっちまって」
菱井の言ってる呼び出しって、きっと会長からだろう。南斗に菱井・会長ラインを知られるわけにゃいかねぇから、菱井の帰りは必然的に遅くなる。
「いいって。一人で落ち着いて考えたかったし――俺、帰るわ。今日はみんなサンキュー!」
大声でクラスの連中に礼を言って教室を出ようとした俺を、橘が呼んだ。
「天宮。お前に客、なんだけど」
橘は明らかに困惑していた。南斗が来たって訳じゃ無さそうだけど、何だろう、胸騒ぎがする。
「北斗君。ちょっと、いいかな?」
「幸崎先生――!」
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