INTEGRAL INFINITY : polestars

 一日ぶりに携帯の電源入れたら、溜まってたメールをたくさん受信した。久保田や橘たちから俺に何があったか問いただすメールも来てたけど、一番多かったのはやっぱり南斗からのだった。

『さっきはごめん』
『一組の男子に電話したけどお前が見つからない。何処にいるか教えて』
『みんな心配してる。連絡だけでもして欲しい』
『今日は学校に来る? 北斗の鞄持ってきたから、昇降口で待ってる』
『北斗は俺のこと許せないって思ってるだろうけど、それでもちゃんと俺に北斗の顔を見て話させて欲しい』

 何の反応もねぇ俺に対し、「いい加減にしろ」とか出てきてもおかしくねぇのに、メールの内容には俺を責めるような事は一言だって書いてなかった。「良い子」のあいつらしいな、って思ったけど、俺が読むタイミングは遅すぎたからか、かえって可笑しかった。

 晩メシに呼ばれて、俺は初めて部屋の外に出た。呼びに来た南斗がドアの前に立ってて、一瞬視線が合う。
 俺は意図的にそれを外した。
 帰りの遅い父さんを除いた食卓は不気味なほど静かだった。俺は「いただきます」と「ごちそうさま」しか言わなかったし、母さんは明らかに狼狽えてて、どんな話題を振って良いかわかんねぇみたいだった。南斗は最初、何かを訴えるような俺を見てたけど、じきに諦めた。

 父さんが帰ってきてから無断外泊について説教されたけど、俺は母さんに言ったのとほとんど同じ言葉を父さんに返した。
「何言ってるんだ、北斗」
「父さんや母さんが欲しかったのは、出来の良い『南斗』が二人なんだろ」
「北斗!!」
 父さんは俺の頬を張った。
「……もういいだろ。俺、寝るから」
「北斗、待ちなさい!」
 父さんの呼びかけはもう無視して、部屋に入って鍵をかける。
 早く学校に行きてぇな、って無性に思った。

 翌朝の状況も昨日と対して変わらなかった。俺は母さんと向かい合わせで、重苦しい沈黙の中朝メシを食った。
 南斗は俺がメシを食い終わった頃に起きてきた。時間的にはいつもと同じだ。それだけ俺が早く起きたってことになる。
「おはよう。早いね」
 南斗は敢えて何事もなかったように振る舞うことにしたらしい。けど、表情にどこかぎこちなさを感じるのは俺の気のせいだろうか。
「俺、これから学校行くから」
「北斗」
 俺は伸ばされた南斗の腕を避けて、玄関先にある靴に足を突っ込んだ。

 教室で菱井を出迎えるなんて、高校に入ってから初めてだ。
「はよ、菱井」
「北斗。昨日は大丈夫だったのか?」
「それ、学校来てから何人にも言われたぜ。平気、やっと吹っ切れたからさ」
「そっか」
「お前、一昨日言ってくれたよな。俺、きっと何でもできる、って――俺、南斗から離れるから」

 

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 父親に向かってア○ロの例の台詞を言ったらもはやギャグですが。日曜に家捜しをしたら高校二年の時に書いた文章ノートが出てきました。へぼんで言うジャ○ニカ。そこに何とpolestarsのオフ連載第一話より更に前の初稿がありました。内容のキモが僅か1Pにまとまってるあたり10年前の自分の方が才能あったんじゃと一瞬思ってしまった……。