「こないだ中間終わったって思ったのに、もう期末かよ」
「期末終わったら冬休みだぜ、菱井。もうちょっと我慢しろよ」
俺は菱井と並んで校門に向かっていた。今日はこの後バイトだから、菱井の家まで一緒に行ってその足でバイト先に向かった方が早い。
「おーい、天宮ぁ、菱井ぃ!」
「あ、久保っちだ」
久保田は俺らが振り返ったのを確認すると、全力疾走でこっちに向かって走ってきた。
「さっき便所掃除組で話してたんだけどさぁ、終業式の後、みんなでクリスマスパーティやらねぇ?」
「そうか、終業式って十二月二十四日だったな」
「そ。だから、参加資格は一組男子でカノジョ無しの奴な」
「久保っちが迷わず俺らに声かけたのってつまり、カノジョいないって断定されてんのかよ……」
「まー、そういうこった。お前らからカノジョの話なんて聞いたことねぇし」
「クリスマスまでに出来るかもしんねーじゃん」
「菱井には無理だな」
久保田はやけに嬉しそうだ。後夜祭の一件のあと、山口副会長と菱井は何でもないと言うことが判明してから、オンナの話を菱井に振る時はいつもこんな調子だ。
「まぁ天宮は判らんけど」
「俺だって無理に決まってるって」
「よし、その言葉信じたぞ。裏切り者には死、だからな!」
うわ。今時そんな台詞言う奴なんているのかよ。正直ちょっと引いた。
「で、もっと具体的な話は決まってんの?」
「俺んち、ちょうどその時期両親が海外旅行行ってて俺一人なのよ。酷いよなー、一人息子ほっといて夫婦二人で海外なんてさぁ」
「久保田って一人っ子だったんだ。知らなかった。どんな感じ?」
「まー、普通? たまに可愛い妹が欲しい、って思うことあるけど」
「げ、お前って妹萌えってやつだったんだ。悪いことは言わねー、妹なんて代物に幻想持つなんて馬鹿のすることだぞ」
「何言ってんだよ、菱井にだって可愛い妹いるじゃん――ほら、可奈子ちゃん」
「なにぃ!?」
久保田の目がつり上がった。どうやら菱井に新たな怒りのツボの存在を見いだしてしまったみたいだな。
「ほ、北斗の裏切り者ー!!」
「なー、北斗。最近毎日どう?」
久保田と別れ、商店街を歩いているとき、菱井がそんなことを訊いてきた。
「楽しいぜ。学校に行くのが凄ぇ楽しみ」
「そっか……」
菱井の口調はどうもはっきりしない。
「何だよ、言いたいことあんなら言えよ」
「――お前、無理してんじゃねーの?」
「んなわけねぇだろ。見ろよ、俺、毎日元気でやってんじゃん」
「たまにカラ元気っぽいなー、って。俺の気のせいならいいよ、忘れて」
カラ元気?
俺、菱井にそんなこと思われてたのか? 何となく、ショックだ。
「優が……」
「え?」
「うんにゃ、何でもねーよ。そうだ北斗、期末の範囲で解んねーとこ教えて?」
「バイト無い日だったらいつでもいいぜ」
そこから会話は校門を出る前に戻って、菱井の家の前に着くまで俺らは試験範囲とその対策について延々と語り合った。
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