INTEGRAL INFINITY : polestars

「北斗の答案用紙見た時も、やべーって思ったけどさー」
 購買前の掲示板に張り出された順位表を見た菱井は、俺の横腹を肘で思い切り突いてきた。唐突だったもんだから思わずバランス崩してよろける。
「――お前、やっぱ化け物」
 いつもなら紙の真ん中あたりにある俺の名前があったのは、右から数えて五番目だ。
「そりゃー、前に北斗って勉強に手ェ抜いてるんじゃ、って言ったけど。ここまで極端だとギャグだな、ギャグ」
「俺もそう思う……」
 何度確認しても、今回の期末の結果は学年五位。勉強に力入れた成果、なんだろうけど、嬉しいと言うより信じらんねぇ、って気持ちの方が先に来る。
「天宮ぁーっ、やったな!」
 隙だらけだったせいで、久保田や橘、緑川のいつもの面子に飛びつかれた。
「橘、首! 首にキマる!」
 危うく意識が落ちそうになったけど、ギリギリのところで橘が腕緩めたから助かった。
「凄いなあ。次、書記の天宮に勝てんじゃないの!?」
「お前、人の耳元で大声出すなよ!」
 緑川は俺達に向けてカメラ構えていやがる。あ、シャッター切りやがった!

「おい、あれが一組の天宮じゃね?」
「今回いきなり順位上がった奴だろ――本当だ、書記と同じ顔だ」
「髪染めてるんだー。八組の天宮君とタイプ違うんだね」
「真面目な書記君も良いけど、あたしはこっちの方が好きかも」

「――北斗、何か目立ってるぞ」
 菱井に言われて気が付いたら、何か周囲からじろじろ見られていた。
「いきなり人気者だなぁ、天宮」
「どっちかっつぅと珍獣扱いな気がすんだけど……」
 大勢の注目を集めるってことに全く慣れてない俺は、とっさに久保田と橘の背後に回った。
 見られるのって怖ぇ……。

「おい、書記の天宮だぞ」
 急に周りのうるささが増す。俺らの中で、こっちの方に向かってきた南斗を最初に見つけたのは久保田だった。
 南斗は眼鏡を掛けたちっこい男子生徒と一緒だ。
「北斗。あれ、四組の」
「知ってる。会計の酒谷だろ」
 写真部で奈良さんと会話した後で気付いたけど、校内で南斗を見かけた時に一緒にいる確率が一番高いのが、この酒谷だった。きっと同じ一年生の生徒会役員だからだろう。

「天宮。お前、何か言われてるみたいだけど」

 基本、笑顔の南斗に対して、酒谷はいつもピリピリした感じの顔つきだ。けど、それは本当に機嫌悪ぃから、ってわけじゃなくて、憎まれ口を叩きながらも自分の仕事はきっちりこなすし、肝が据わってるうえ面倒見も良いから周りの連中からは凄ぇ頼られてるらしい。
 ちなみに、このへんは菱井が小野寺会長から聞いてきた情報だ。
 けど俺は、良い評判しか聞かされてねぇにも関わらず酒谷のことが何だか苦手だった。特に害を受けたわけじゃねぇし、そもそも個人的に話した事すら無い。俺が菱井の事を話すみてぇに南斗が家でこいつの話題を出したこともあるんだろうけど、俺の記憶にはこれっぽっちも残っていない。
 理由らしい理由がねぇってことは、生理的に受け付けない、ってやつなんだろうか。

 酒谷と並んだ南斗が、俺達のことに気付いた。

 

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 気が付いたら会計の酒谷君は名前をいただいた酒谷氏と共通のファクターてんこ盛りになってました。