南斗が俺に近づいてくるのを見て、周りの連中が俺らの包囲網を解く。南斗はあっけなく俺の前まで来た。
酒谷は南斗の立ち位置から一歩引いたとこで立ち止まり、久保田達も俺の側から離れた。結果的に、俺と南斗だけが向かい合って立つカタチになる。
南斗は俺の背後の成績順位表を見て、それから俺の顔に視線を移した。
「五位――凄いね、北斗」
「……」
お前こそ入試以来ずっと、それに今回だって一位守ってんじゃん。
俺は返事しなかったけど、成績面でここまで南斗に近づいたのは初めてだし、それを他ならぬこいつ自身に認められんのは悪い気分じゃねぇ。
けど、南斗のほうもこれ以上言葉を続けるのに困ってるみてぇだった。
そりゃあ、例えば菱井達に「やれば出来るじゃん」って言われても全然平気だけど、南斗から何を言われたら俺の怒りが沸点越えるか、自分でもちょっと判断つかねぇ。賢いあいつには、ちゃんとそれが解ってるんだろう。
二人とも何も喋んねぇせいか、外野がまた色々言い始めたのが判った。声が小さくて内容は聞きとれねぇけど、だいたいどんなもんなんかは想像つく。
状況を打開したのは、正直誰もこいつとは考えなかっただろう、意外すぎる奴だった。
「天宮――そう、天宮北斗のほう。ちょっと一緒に来い」
横柄な態度で顎をしゃくったのは政経の先公、鎌仲だった。
俺は鎌仲におとなしくついていった。鎌仲はあまり逆らわない方が良いタイプの先公で、当たり前っちゃ当たり前だけど、俺ら生徒の間でも人気最低ランクだ。
俺らに向かっていつも高圧的な態度で喋るし、全員が授業一発で内容を理解できて当然だと思ってる。前、橘が質問に行ったらネチネチ文句言われたと愚痴をこぼしていた。
鎌仲と俺は職員室に入った。鎌仲は自分の席にどかっと座ると、ふんぞり返った姿勢で椅子の向きを俺の方に回した。
「先生、俺に一体何の用なんすか?」
「お前、今回の期末では随分いい成績だったじゃないか」
「……はぁ。どうも」
「はっきり言って、良すぎる。観念して白状したらどうだ?」
思い切り人のこと馬鹿にした口調だった。わざとらしく唇をゆがめてるとこなんか、凄ぇむかつく。
「――俺がカンニングしたって言うんですか?」
「そうでもなけりゃ考えられんだろう。今まで平均すれすれだったのがいきなり五番以内だなんて、疑ってくれと言ってるようなもんだ。正直に言えば渡しの胸三寸に納めて、大事にはしないでおいてやる」
鎌仲の奴、はなから俺がカンニングしたって決めてつけて喋ってやがる。前々から好きじゃねぇけど、今日ほどこいつ最悪、って思った事はねぇ。
時間かかるだろうけど、濡れ衣はらす自信が無いわけじゃねぇ。でも疑われたってこと自体がマジ気分悪くて、俺は奥歯を噛み締めた。
「鎌仲先生。一体北斗に何をやっているんですか!?」
驚いた鎌仲が慌てて座る姿勢を正した。つられて俺も後ろを振り返る。
南斗と酒谷の二人が、そこに立っていた。
prev/next/polestars/polestarsシリーズ/目次