INTEGRAL INFINITY : polestars

天宮北斗様

 突然の手紙ごめんなさい。直接お話ししたいことがあるので、放課後第二校舎の裏で待っています。

 時間にはまだ余裕があったから、俺らは生徒があまり使わねぇ一階のトイレに隠れて、例のラブレターを開封した。南斗と間違えられて、っつぅケースは何度も経験済みだし気楽だけど、俺自身を名指し、っつぅのは初めてだからどう対処すりゃ良いのか全然考えつかねぇ。成り行きとはいえ菱井がこの場に立ち会ってくれて、俺はちょっと安心していた。

 便せんに書かれた名前も、間違いなく俺のものだった。けど、俺らが一番驚いたのは、手紙の差出人だ。
「『一年四組 奈良美佳』……マジか、この奈良美佳ってあの『奈良さん』なのか?」
「四組だし他に同じ名字の奴なんて知らないし、間違いないと思う――あ、下の方に追伸あんじゃん」

 今度は下駄箱の場所を間違えてはいません。

「どーすんの? 北斗」
「どうすんの、って、そりゃ俺のが訊きてぇよ……」
「とりあえず、行くだけ行ってみたら? ばっくれんのも相手が可哀想じゃん」
「そうする。菱井、この事は久保田達には黙っといてくれ」
「オッケー。これは重大事だからなー……やべー、時間見ろよ」
 気がつけば、ホームルーム開始までにはダッシュで戻らないとヤバイ時間だ。
 曲げちまうのは何かもったいねぇ気がしたけど、封筒を制服のポケットにねじ込んでから廊下に飛び出した。

 通知票の結果は、やっぱ中間が足を引っ張ったせいで伸び率低かったけど、二学期総合じゃどの教科も一学期より評価が上がっていた。期末の成績も書かれてっけど、こいつを両親に見せるのは何か嫌だった。成績が上がったから、っつぅ理由で向こうに態度変えられても困る。三学期始まるまで俺の机ん中に隠しとこう。
 それよりも目の前に転がってる最大の問題は、これから第二校舎裏で起こるはずの事だ。
「おい天宮ー。帰んねぇの?」
「ごめん、ちょっと用事あるから先帰ってろ」
「待ち合わせには遅刻すんなよ?」
「わかってる。何かあったら菱井に連絡すっから」
 俺と菱井は視線を合わせる。菱井は軽く頷いて、久保田達のあとをついていった。

 クラスの連中があらかた帰った後、俺は第二校舎裏に向かった。
 二学期が始まったばかりの頃、南斗宛のラブレターで呼び出された場所でもある。
 奈良さんはあの時と同じように、凄ぇ緊張した顔で待ち合わせ場所に立っていた。違うのは今は冬服を着てるっつぅ事ぐらいか。

「あ、あのっ……! あ、天宮君!」

 俺を発見した奈良さんは顔を真っ赤にして、それでもちゃんと俺の顔を見て話しかけてきた。
「きっともう解ってるって思うけど、私、天宮君の事が好きです。もし良かったら私と付き合ってください!」

 

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 まだ携帯メールどころかポケベル全盛期だった時代、文通が大好きでした。相手は主にいとことか創作サークルの仲間とか。よく文房具屋で可愛いレターセットを探したものです。