「天宮! あと三十秒で遅刻だったぞ」
「ごめ、学校出んの遅れた。一回、家帰って着替えてきたからさぁ」
待ち合わせ場所には既に、今日参加する予定の連中が全員集まっていた。ビリは俺だから、とりあえず久保田に軽く謝っておく。
「じゃあ、先に買い出ししていこうぜ」
「久保っち。ケーキは買うのー?」
「クリスマスだから当然だろ」
「ケーキ屋の前で売り出しやってたぞ」
俺らは食料買うために、揃って商店街に引き返した。
クリスマスパーティ、っつぅ名前はついてるけど、それは単なる口実みてぇなもんで、やる事は単に食い物食ったりゲーム大会で騒いだり、そんな感じだ。
下田が持ってきた最新作のレーシングゲーム勝負に、みんなかなり長い間熱中した。多分、途中で対戦で勝った奴に負けた奴はケーキ一口分やる、ってルールになったからだな。カネじゃなくても何か賭けりゃ人間って熱中するもんだ。意外にも一番熱くなってたのは菱井だった――こいつ、将来が心配じゃね?
外が暗くなる頃には、ゲーム対戦はいったん落ち着いた。
「そろそろケーキ食おうよ」
「俺にはもはや関係ねーよ……」
橘が提案すると、菱井は恨みがましく呟いた。結局こいつ、ゲームに負け続けてケーキ食えねぇ事になってるからな。気の毒になった俺は菱井に声を掛けた。
「菱井。俺の一口やろうか?」
「ホントか!?」
「ほら口あけろ。あーん」
言われた通りにした菱井の口の中に、フォークでケーキを突っ込んでやる。
「うわーお前ら怪しいー!」
俺らの行動はウケが良かったのか、周りはみんな笑った。特に橘はげらげら笑いすぎて、苺を喉に詰まらせかけた――ものを食いながら笑うからだ。
けど、緑川ひとりだけは妙に真面目な顔してる。
「そういえば天宮君。キミ、奈良女史とはどうなったんだい?」
「――はぁ!?」
こ、こいつ、いきなり何言い出すんだ!?
「え、え、何?」
「恐らく今日、彼女は天宮君にラブレターを渡したと思うんだがね」
「マジ!? 天宮それホントなのかっ!?」
「ひょっとして学校で言ってた用事、ってそれ?」
みんな凄ぇ勢いで食らい付いてきて、圧倒された俺は思わず頷いてしまった。
「けど……何で緑川が知ってんだよ」
「一昨日、部室でラブレターを執筆中の奈良女史を目撃したのだよ。以前も彼女は、ボクが文化祭で撮ったキミの写真をさりげなく欲しがったりしていたからね。少々、つついてみたらあっけなく白状してくれた」
「緑川って案外底意地わりーな……」
菱井が俺に耳打ちした。それにしても、奈良さんって本命に告る前に必ず他人にバレるのな――。
「それで天宮、なんて返事したんだ?」
「断ったよ。じゃなきゃ俺、今この場にいるわけねぇだろ?」
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