INTEGRAL INFINITY : polestars

 夜遅くなって、菱井はしょっちゅう時計を確認するようになった。
「菱井お前、この後用事でもあんの?」
「あー……うん、そろそろ帰んないとやべー」
「お前が帰るんだったら、俺も帰るよ」
 メンバーの中にはこのまま久保田んちに泊まる奴もいるけど、俺は元々そのつもりは無かった。
 久保田んちって俺んちと学校挟んで逆方向だし距離もある。家から一番近いってだけで高校を惣稜に決めた俺からすると、電車通学する根性は正直凄ぇと思う。
「菱井、天宮、帰んの?」
「あぁ。もうこんな時間だし。今日はサンキューな」
「暇だったら正月も初詣行こうぜ」
 また連絡するから、と言うみんなの声に送り出されて、俺らは久保田の家を出た。

 終電にはまだ早いけど、流石に電車の中は凄ぇガラガラだった。普段出来ねぇから、っつぅ事で、俺と菱井は長い座席を堂々と二人で占領した。
「クリスマスだっつぅのに乗客少ねぇな」
「だからじゃん? カップルはこんな時間は出歩かんでホテルの部屋とかにいると思うぞ」
「……なるほど、確かに」
 数少ない乗客は、だいたいくたびれた雰囲気のサラリーマンだ。クリスマスイブに残業か……大人って大変なんだな。
「菱井。次、降りる駅だぞ」
 学校から家が近い俺と菱井の最寄り駅は同じだ。昼の待ち合わせ場所がそこだったのは、学校にも一番近いからだ。
「ごめん、俺、その次の駅で降りるから」
「なに、家に帰んねぇの? ――ひょっとして、お前こそオンナと待ち合わせしてんのか?」
「断じてちげーよっ!!」
 菱井はいやに力強く否定した。けど詳しいことを話すつもりは全然無いらしい。電車が停車しちまったから追求する時間無くて、仕方なく俺は一人で下車した。

 冬の夜空は、冷たく澄んでて綺麗だ。
 俺は空を見上げながら暗い住宅街を歩いた。
 この時間帯は双子座が天頂の近くにあってよく見える。自分の生まれ星座なのにあまり好きじゃなかった星座だ。しかも、兄(カストル)のが弟(ポルックス)より暗い。
 流石に、家の明かりは全部消えていた。父さん、今日は帰んの早かったんだな。いつも遅い分、そんな日は寝るの早いし。うちの両親って基本的に寝付き良いから、こういう時に好都合だ。
 そっと鍵を開けて中に入る。暖房切ってからあんまり時間経ってねぇみたいで、まだ空気が少し暖かい。
 さっさとシャワー浴びて寝るか。あんま遅いと水音が響いて近所迷惑になる、ってよく怒られたし。

 俺は着替えを取りに二階に上がった。俺の部屋だけ昼から暖房入れなかったから、多分ここだけ凄ぇ寒いだろう。しまった、どうせシャワー浴びるんだから、って防寒になりそうなの一階で脱いでくるんじゃなかった。
 中に入って蛍光灯を点けようとしたとき、ベッドから立ち上がるようにして、人のシルエットが動いた。

「――遅かったね、北斗」

 

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 実際に、二年ぐらい前は私自身がクリスマスイブにくたびれたOLとして遅い電車に乗っていたのですが。あー直前に徹夜とかあったな。懐かしい。