灯りを点けると、視界が闇に順応してたらしい南斗は一瞬目を細めた。
「南斗。何で俺の部屋にいんだよ。しかも電気点けねぇで、おかしいんじゃねぇの?」
お互いの部屋には勝手に入らねぇ――それが部屋を分けた時からのルールのはずだ。俺も一度衝動的に破ったけど、待ち伏せみてぇな真似だけは断じてやってねぇ。
一番明確なテリトリーを侵されて俺は腹が立ってたけど、南斗は無視して俺の横をすり抜け、中途半端に開いてた部屋のドアを閉めた。
カチャリ、と鍵の落ちる重い音が響く。
「誰にも何も言わないで、何処に行ってた?」
「別に、お前にゃ関係ないだろ」
「そう――北斗も知ってるよね、生徒会室が第二校舎の最上階にあるの」
第二校舎、っつぅ単語に思わず背筋が震える
「見てたよ。北斗が奈良さんに告白されてるところ。合ってるよね? 彼女、朝も北斗の下駄箱のところで何かしていたし。酒谷が一緒にいたから、中は確かめられなかったけど」
南斗にあの現場、見られてたのか……。
そう認識した時、俺が感じたのは何故か重苦しい罪悪感だった。
だから、南斗がこっちに近づいてきたのが判らなかった。
「オーケーして早速デート? 今日はクリスマスイブ――いや、もう昨日か。だから?」
「ち、違」
南斗の奴、完璧に誤解してやがる。
生徒会室のある四階からは、流石に地上での会話は聞こえねぇ。告白は断ったけど、帰る時は成り行きで同じ方向に歩いたから、こいつからはオーケーしたようにしか見えなかったのかもしんねぇな。
けど実際は、俺は久保田んちでみんなと騒いでただけだ。とにかく誤解を解かないと話進まねぇ、ってばかり思って、そもそも南斗が何で俺の部屋で待ち伏せしてたのか、っつぅ点について俺は全く考えなかった。
――いきなり肩掴まれて、床に押さえ込まれるまで。
「痛ぇっ!」
あまりにも突然で頭庇うなんて無理で、思い切り頭を床に打ちつけた。痛みに動けなくなってるあいだに下半身に重みがかかる。後頭部を抱えようとした手首を両方とも捕まえられた。
「南斗っ!! 何すんだ、どけよ!」
何とか逃れようと必死で動くけど、俺の上に馬乗りになった南斗はびくともしねぇ。手首の骨が砕けそうに痛い。体型は変わんねぇっつぅのに、いつの間に力まで敵わなくなってんのかよ。
「ふざけんなっ……!」
「ずっと兄弟でいるつもりだったけど――もう、いいんだ」
――怖い。
だって南斗は笑っている。いつも通りの、あの完璧な笑顔で。
俺を見下ろす瞳だけが暗い。
「北斗が言ったんじゃないか。もう俺達は元に戻れない、って」
今になって初めて、俺は理解した。
芝居がかってる、って思ってた南斗の表情や行動は、全部マジで作り物だったって事に。
あの事件以来、南斗は全然変わらなかったわけじゃない。巧妙な演技で俺や周りをそうと思いこませてた。
「俺がこうする前に壊れてるなら――止めなくたって同じだよ」
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