INTEGRAL INFINITY : polestars

「何もかも北斗に追いつくためだったけど、いつの間にか北斗は俺と一緒にいたがらなくなったよね。辛かったけど、別にそれでも良かった。兄弟でさえいさせてくれるなら――お前が他の誰も見ないで、俺以外の誰もお前を見ないなら」

 南斗は俺の左手首を解放して、その手で耳を掴んできた。イヤーカフスの辺りを弄られ、金属と皮膚が擦れて痛む。
 空いた片手で南斗を押しのけようとしたけど、今度は全身で押さえ込まれて防がれた。
 右手首も解放された代わりに両腕で頭を抱き込まれ 飲み込もうとした息が詰まる。
 ひょっとして俺キスされてんのか、って気付いた時にゃもう手遅れで、抵抗する前に南斗の舌の侵入を許してしまった。
 逃げる俺の舌はしつこく追尾されて、結局捕まって絡まれて、五感とか何もかも口んなかに集中しちまって――ヤバイ、苦しい。
 最初は南斗の背中を叩きまくってた俺の両腕は、もう力が入らなくなっていた。
 気管に何か入って、俺がむせてやっと南斗が顔を離す。

「でも、北斗が俺を否定して、他の誰かのものになろうとするなら――誰のものにもなれなくするだけだ」

 やめろ、この部屋寒い、空気冷たい。鳥肌立つ。
 骨の形、なぞられたところだけ熱い。
 痛っ……首んとこ、痛い。

 嫌だ、なにこれ。何だよ。

「石鹸の匂い、すると思ったけど」

 俺の首筋に顔を埋めて、南斗が呟く。
 こいつが俺に何する気なのか、ぴったりくっつかれた状態だからパニックになってても嫌になるぐらい解る。
 いっそ意識を手放せれば楽なのに、鳥肌が悪化するほど上半身がぞわついてて、それも出来ない。

 今度は軽く唇に落とされるキス。回数重ねるたびに顎から喉、胸へと身体の中心方向に向かって降りてくる。
 俺の身体は金縛りにあったみたいに硬直して、逃げようって思ってんのに指一本すら動かせねぇ。
 南斗の手がへその辺りに掛かって、ぶちっ、ってボタンが外れる鈍い音がした。

 やだよ、助けてくれよ。

 菱井。

 幸崎先生。
 会長。

 誰か、助けて。

――南斗。

「やぁ……っ、助けて……助け……て」

 いつの間にか出てきた涙で、視界の何もかもが歪む。

「っく……怖いよ……来て、くれよ」

 その向こう側に辛うじて見える人影に、俺はしゃくり上げながら、必死で助けを求めた。

 そいつは、まだ十二になったばかりぐらいの。

「早く……助け……来、て」

 生まれた時から一緒にいた、ずっと一緒にいるつもりの、俺の双子の。

「……助、けて……ぇっ――南、斗……南斗」

 南斗。

 たすけて。

 なんと。

 

prev/next/polestars/polestarsシリーズ/目次

 63話目にして初めてのキスシーン(前回と同じパターンの出だしだな)。冒頭の南斗の台詞はミスドのカフェオレ飲みながら何案も作りましたが、ともすれば長くなりすぎて必死で削りました。