「何もかも北斗に追いつくためだったけど、いつの間にか北斗は俺と一緒にいたがらなくなったよね。辛かったけど、別にそれでも良かった。兄弟でさえいさせてくれるなら――お前が他の誰も見ないで、俺以外の誰もお前を見ないなら」 南斗は俺の左手首を解放して、その手で耳を掴んできた。イヤーカフスの辺りを弄られ、金属と皮膚が擦れて痛む。 「でも、北斗が俺を否定して、他の誰かのものになろうとするなら――誰のものにもなれなくするだけだ」 やめろ、この部屋寒い、空気冷たい。鳥肌立つ。 嫌だ、なにこれ。何だよ。 「石鹸の匂い、すると思ったけど」 俺の首筋に顔を埋めて、南斗が呟く。 今度は軽く唇に落とされるキス。回数重ねるたびに顎から喉、胸へと身体の中心方向に向かって降りてくる。 やだよ、助けてくれよ。 菱井。 幸崎先生。 誰か、助けて。 ――南斗。 「やぁ……っ、助けて……助け……て」 いつの間にか出てきた涙で、視界の何もかもが歪む。 「っく……怖いよ……来て、くれよ」 その向こう側に辛うじて見える人影に、俺はしゃくり上げながら、必死で助けを求めた。 そいつは、まだ十二になったばかりぐらいの。 「早く……助け……来、て」 生まれた時から一緒にいた、ずっと一緒にいるつもりの、俺の双子の。 「……助、けて……ぇっ――南、斗……南斗」 南斗。 たすけて。 なんと。
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63話目にして初めてのキスシーン(前回と同じパターンの出だしだな)。冒頭の南斗の台詞はミスドのカフェオレ飲みながら何案も作りましたが、ともすれば長くなりすぎて必死で削りました。 |