ベッドの上で食うとこぼして布団汚すから、っつって、昼メシの時だけ一階に呼ばれた。
お粥なんてここ数年、七草の時しか食ってないな。俺、地味に皆勤狙ってるし。中学の時は無事に達成して賞状貰ったけど、うちの高校だと三年連続で達成すると更に手帳とか記念品が貰えるらしい。
梅干しをレンゲで崩しながら、今は冬休みで良かった、って思った。明日のバイトはひょっとしたら休まなきゃなんないけど。
リビングの方で電話が鳴った。
「北斗、あなたのクラスの菱井君って子から。熱があるから、って言ったら是非お見舞いに来たいんですって。大丈夫?」
「菱井?」
ひょっとして、俺の携帯に繋がらないって思って家に掛けてきたのか? 何で? ――そうだ、俺、寝る前菱井に電話したんじゃん。
「いいよ。菱井にそう言っといて」
菱井が来る前にもう一眠りしたいし、さっさとベッドに戻んねぇと。
けど、単調な味のお粥を一気食いすんのはかなりの労力が必要で、思わずテーブルの上のラー油を投入しようとしたところを母さんに見つかって軽く説教されてしまった。
「ほれ。見舞いの定番・桃缶だぞ」
「お前、そういうとこは外さねぇよな……」
スーパーの袋を受け取ってから気付いたけど、菱井は昨日と全く変わらない格好だ。
「昨日から着替えてねぇの?」
「あー……泊まってそのままここに来たからなー」
「まさか、本当にオンナとホテルとか泊まってたんじゃねぇだろな」
「違う違う違う違うっ!!」
「じゃあ、何処行ってたんだよ」
菱井は顔をくしゃくしゃにしたり戻したり、暫く迷った末にやっと白状した。
「スグ……じゃない、会長の家」
何だ、全然普通じゃん。菱井は小野寺会長と知り合いなのって隠したがってるけど、俺には今更じゃねぇの?
「ちょっとアルコール飲んじまって、お前から電話掛かってきた時間は爆睡してたんだよ」
「シャンメリーとシャンパンを間違えたんじゃないだろうな」
菱井の顔が固まる。どうやら図星だったらしい。会長が騙したんだろうけど、あの人ってそんな事すんだなぁ、意外かも。
「――で、昨日俺に電話掛けてきた件だけど」
「う」
やっぱ、菱井は俺の電話を気にして来たんだ。電話掛けたときはとにかくパニクってて、こいつに相談しないと、って思いこんでたけど、正気に戻って考えてみりゃ「双子の兄弟にヤられかけました」だなんて絶対言えねぇじゃん!
「北斗。その、やっぱり天宮南斗に襲われたのか……?」
「はぁっ!? 俺、声に出てた!? ――うっ、ケホッ、ゲホッ!」
叫んだ途端に激しく咳が出た。喉が詰まって涙が出る。
「病人は騒ぐなよ……」
菱井は俺の背中をさすりながらも、微妙に視線をはずしている
「あのさ、言いにくいんだけど――首んとこ、丸見え」
俺は菱井をはね除け、毛布の中に潜り込んだ。な、情けなすぎて涙出そうだ。
「ごめんな……危ねーかも、って予感あったのに、結局お前こんな目に遭わしちまって……」
菱井は、ひどく痛そうな表情で俺の目を見た。
「具合悪い、って実はその、アレ……なんだろ?」
「――言っとくけど未遂だ、未遂」
「え? そなの?」
拍子抜けしたらしい菱井は間抜け面を晒した。まぁ、勘違いされてもしょうがねぇけど、やっぱ他人の口から言われんのは……。
それよりこいつ、さっき気になること言わなかったか?
「なぁ。予感あった、って何の事?」
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