「うわっ!」
「げっ」
菱井に聞き出そうとしたちょうどそのタイミングでドアが叩かれた。
「北斗。飲み物を持ってきてあげたんだけど」
「あー、すいませんわざわざ」
病人の俺の代わりに菱井が立ち上がり、母さんからアイスティーが載ったトレイを受け取ってくる。
ゆっくりしていってねは変かしら、とか言いながら、母さんは部屋から出て行った。
俺は菱井に部屋に鍵かけてくれ、って頼んだ。あいつは言われたとおりにすると、「おし!」とか言って妙に気合い入れながら床に座り込んだ。
「あのオッズ表な、実は、作ったときから個人的には『禁断愛』一点賭けのつもりだったんだ」
「……は?」
「女子に言われてプラスしたのはホントなんだけどさ。もし本当に金賭けるならガッポリ儲けようかと」
つまりこいつは最初から答え解ってた、ってことか? 俺に調べろと言っときながら?
「まー、正解が公表されるわけねーって後から気付いたけどな」
俺が無言で睨み付けると、菱井はあさっての方向を向きやがった。
「っつぅかマジ? 何で?」
「お前、初対面からいきなり凄い怖い目つきで睨まれた挙句、探り入れられまくって牽制されたら誰だっておかしいって思うだろ」
何それ。思いっきり初耳なんですけど。
「文化祭実行委員やってる間、俺がどれだけ神経磨り減らしたと思う? 生きた心地しなかったぜ」
「菱井。何で、俺に言わねぇんだよ」
「言えるかよ、あんな目で睨まれたら。他人の俺がお前に言ったって、余計こじれてひでー目に遭うだけじゃねーか」
「そりゃあ……」
「ひょっとしてあいつ、中学のときもあの調子でお前の周りの人間追っ払ってたんじゃねーの? じゃなきゃ懐柔して自分の側につけるとか」
菱井の言う事に何となく覚えがあった。中学に入学したての頃、俺が誰かと話してると南斗はすぐ興味持って声かけてきた気がする。あれって単にあいつが社交的すぎるだけ、って思ってたけど――。
「北斗、ダチに天宮南斗がらみの話出されるの嫌いだろ。それに俺、圧力に屈するぐらいならギリギリまで自力で抵抗すんのに燃えるんだよ。慣れりゃー遊ぶ余裕もできたしな」
あれか、偶然三人一緒に帰る羽目になった時のことか。
「とにかく独占欲丸出し、って感じ。視線だけで『俺の北斗に近寄るな』って言ってるんだぜ。俺は明らかに間男扱いだったね」
「マオトコ?」
「夫がいない隙に妻とヨロシクやってる奴。奥さん米屋です、みてーな?」
思わず、フリル付きのエプロン着けてる俺に米屋のコスプレした菱井が迫ってくる光景を想像しちまった。
……嫌すぎる。
「何か話ずれてきちまったけど、北斗が天宮南斗をあからさまに拒否しだした頃から危機感感じてたんだよ。あいつ、お前のことしか見えてなかったから。なのに外面は全然変化なかったろ? 会長が俺に言ってたんだけど、天宮南斗ってキレてるときほど隙の無い表情で愛想振りまくらしいぜ」
それは昨日、嫌ってほど実感させられた。
思い出すだけで身体の震えが甦る、俺を見下ろすあの笑顔。
「昨日の放課後に生徒会室の窓から第二校舎裏を見下ろしてた、って……その後の笑顔がすげーヤバい状態だったらしいし」
俺が顔色変えたのが判ったのか、菱井は「大丈夫か?」って訊いてくれた。
prev/next/polestars/polestarsシリーズ/目次