「北斗、言うのが辛いんだったら無理すんな。何が起きたか俺にもだいたい想像つくから」
「いや、言わせろ。俺もまだ頭ん中で整理ついてないとこあっから……」
俺は菱井に、昨日起きたことを全部話した。
家に帰ったら、俺の部屋に南斗がいた事。
小野寺会長の証言どおり、南斗は俺が奈良さんに告白される現場を見ていた事。
それより前に、奈良さんが俺の下駄箱に手紙入れたところも目撃していた事。
南斗は俺が彼女からの告白をオーケーしたって思っている事。
俺が家族の誰にも昨日久保田んちでみんなと遊ぶ予定を言ってなかった事。
そのせいで、南斗は俺と奈良さんがデートしていたと勘違いしていた事。
――そして、キレた南斗がいきなり俺を床に押し倒してきた事。
「お前の言うとおり、あいつ笑ってたんだ。凄ぇ怖かった。だって笑顔で人のことヤるって言うんだぜ……」
菱井も俺の話を、天文部の事件の時のように真剣に聞いてくれた。
キスされた事も。
それ以上の事をされそうになった事も。
触られたとこからおかしくなっていきそうだった事も。
いつの間にか夢中で子供の頃の南斗に助けを呼んでた事も。
「お前、天宮南斗に助けを求めたん? ――だから途中で止めたのか」
「理由、ってやっぱ、それ?」
俺だったらたまんねーよ、と菱井は顔を複雑に歪めて言った。
「襲ってんのは間違いなく自分なのに、相手はその自分に必死で助けてくれ、って言ってるんだぜ。そこにいる自分自身じゃない自分を見てるんだ。ショックと自己嫌悪でボロボロになるね」
確かに俺はあの時、今まさに俺をヤろうとしてる南斗じゃなくて、未だ普通に仲良かった頃のあいつを見てた。
「とっさに助けを呼ぶ相手って、心底信頼してる奴ぐらいしかいねーだろ? 自分がそれを最悪の形で裏切ってる、ってちょっとでも理性残ってたら気付くんじゃね?」
鬼畜な奴だったらそれでも気にしなそうだけどさぁ、と菱井は続けた。
「今までは我慢出来てた天宮南斗は多分、そうじゃねーって思うよ」
それでどうなった、と菱井は俺に話の続きを促した。
「気付いたら俺の上で南斗が泣いてて……ずっと好きだった、って言われた」
「ものの見事に順序が逆だな。普通、告白が最初じゃねーの?」
なんかその突っ込み、今更って感じだな。けど菱井らしい気がして安心する。
「南斗は無かったことにしなくていい、軽蔑して欲しい、って言って部屋出てって――それで、終わった」
「その後、お前は俺に電話掛けてきたわけ?」
「もうなんかわけわかんなくて、そういう時に最初に思い浮かんだのはお前だったよ」
そして今も判らない。
「菱井。俺、どうしたらいい?」
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