菱井は難しい顔して、暫く何も言わなかった。
「菱井……?」
「思うところはあるにはあるんだけどさ……俺がアドバイス出来ることじゃねーと思うんだ」
「それ、どういうこと?」
「北斗の気持ちの問題は、北斗自身じゃねーと解決できないよ」
――俺の、気持ち?
「いいか、天宮南斗はお前が好きなんだ。家族だから兄弟だからとかじゃなくて、れっきとした恋愛感情なんだぞ」
好きだ、と言ったときの南斗の泣き顔を思い出す。
あれは、いい加減に捉えて良いもんじゃ、絶対ない。菱井に言われて俺は初めて気が付いた。
「菱井。けど……それでも俺、わかんねぇよ……」
「北斗が誰か好きになって、それでどうしよう、って相談なら話は簡単だったんだけどなー。お前って昔の俺と違って、そのまんま育っちまったから複雑にできてるっぽいし」
「何だよそれ」
馬鹿にされてるような気がして睨み付けると、菱井は「まーまー」と俺をなだめる。
「とにかく、どんなに時間がかかってもいいから自分で結論出せ。考える過程で出た悩みになら、いつでもいくらでも相談乗ってやるから」
「サンキュー……」
ああそういや、こいつにはいつも何かしてもらってばっかだ。
俺の方が菱井に返してやれる事、ってねぇのかな?
「お前も、何か困った事あったら今度こそ俺に言えよ。俺だってお前の親友のつもりなんだからな」
「ばーか。病人が殊勝なこと言ってんじゃねーよ」
菱井は俺の頭をぐしゃぐしゃにかき回した。
「おっ、いい感じに頭皮に汗かいてんなー」
「うるせぇ。折角人が感謝の気持ちを表してるっつぅのに。前言撤回するぞコラ」
「ははっ。ま、本当に辛くなったら遠慮無く北斗を頼るから――今は全然、平気だしさ」
「ホントか? 会長に虐められた、ってのでも良いんだぞ?」
「へっ!?」
菱井の手が俺の頭を掴んだまま止まった。
いてっ、そのまんま力入れるなこの馬鹿!
「じゃあ俺、そろそろ帰るよ。あんまり長居して体力使わせたら悪いもんな」
「十分長居したんじゃね? けど、お前と話せて良かったよ。お前の言うとおり、明日南斗が帰ってくるまで一人で考えてみるわ」
「明日?」
菱井が変な顔をした。俺、おかしい事言ったんかな?
「北斗。生徒会の名を騙った天文部の合宿って、二泊三日だぞ」
「マジ!?」
「会長から聞いたから間違いねーよ」
だってあの時幸崎先生は南斗に、合宿は一泊って――。
「なんかさ、山口先輩が『冬合宿ならスキーやりた〜い♪』って幸崎先生にゴネたらしいぜ。しかも直前になって」
あ、あの人が原因なのかよ……。
まぁ、考える時間増えた、って思えば良いかもしんねぇけど、俺は複雑な気持ちだった。
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