――はぁ!?
何だよそれ!?
「かえってご迷惑をおかけするんじゃないかしら、って、帰ってくるよう言ったんだけどどうしても聞かなくて……顧問の先生とまでお話しする羽目になって」
「幸崎先生……?」
「そう、そういうお名前だったわ」
南斗達が泊まってんのは幸崎先生のお兄さんが経営してるペンションだそうだ。なので先生は預かり先の身元保証と、南斗に関する全責任を自分が請け負う、と母さんを説得したらしい。
「まだお若そうなのに、随分良い先生ね。だから南斗も冬休みにまで一緒にいたがるのかしら」
「はは……」
母さんの言葉には、俺は力なく笑うしかなかった。
なんつぅか、知らねぇのって羨ましいよなぁ、って思った。
何しろ俺だって、つい一昨日まではそうだと信じてたんだし。
俺より先に先生と知り合って、俺には絶対に秘密にするって周囲に約束させて天文部創って、俺がその部に入ろうと知った途端にキレた南斗。あいつは先生との時間を誰にも奪われたくないからだ、って思ってた。
だけど南斗が好きなのは俺だ、って言って。なのに冬休みはずっと先生といることを選んで――。
「南斗の考えてること、、さっぱり解んねぇ……」
幸崎先生も、いくら自分の部の部員だからって二週間近くも生徒が家に帰んねぇの許すか、普通。
何だろ、胃の辺りがむかむかする。俺の身体、まだシチューすら受け付けらんねぇのかな?
「ほんと、あの子が我が儘を言うのって、高校受験の時以来だわ」
「え?」
「本当はもっとレベルの高い高校――あの樫ヶ谷だって合格出来る、って担任の先生からは奨められていたのよ」
樫ヶ谷学院は隣の県にある、全寮制の有名私立進学校だ。そういや中学の時、俺のクラスにも一年の時から樫ヶ谷の高等部目指して勉強ばっかりしてて、俺とは違う意味で孤立してたやつがいた。そいつにちょっと親近感持ってたんだけど、あいつ今、何してんだろう。
確かに、当時の南斗の頭のデキだったら樫ヶ谷だって楽勝だったかもしんねぇな。
「なのに、南斗は惣稜以外受験しない、って先生や私達に言い張って。寮に入るのは嫌だ、楽に通えるところがいい、ってね」
「俺、その話全然知らなかった……」
「南斗、家ではその話は絶対にしたくない、って言っていたから。同じ高校を受ける北斗に悪いから、って」
南斗が惣稜一本に受験校を絞ったのは俺と同じで、通学が面倒だからだ、って思ってた。
今は流石に、その本当の理由が解る――俺が、「惣稜以外は行きたくねぇ」っていつも言ってたからだ。
「北斗はその点、惣稜のレベルがちょうど良かったから困らなかったけど――」
母さんはそこまで言って、黙ってシチューの水面を見つめているだけの俺に気付いてハッとした。
「ご、ごめんなさい。そういうつもりじゃ、無かったのよ」
「俺、やっぱ全部食えない。もう寝るよ」
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