自分の部屋に戻った俺は丸一日ぶりに携帯開いて、南斗に電話をかけてみた。
『この電話は 現在電源が入っていないか 電波の届かないところにあるため かかりません――』
「……やっぱ無理か」
メール送ろうか、とも思ったけど、ちょっと考えて俺はやめた。
南斗の携帯は電源が切られてるか、ひょっとしたらペンションとやらはマジで電波届かないとこにあんのかもしれない。
どっちにしろ、南斗は何処からの連絡も受け付けようとしねぇだろう。
諦めた俺は、布団かけないままでベッドの上に転がった。
「畜生、南斗の奴逃げ方が豪快すぎ」
むかつくことにゃ変わりねぇけど、半分ぐらいは呆れみたいな、おさまりきれねぇ気分だった。
何でかって、家に帰んのを拒否して連絡手段の一切を断つってのは――俺があの時、会長の家に泊めて貰ったのと全く同じ手段だからだ。
俺ら、変なところで双子なのな……。
とにかく、熱のせいで無くなったって思ってた時間は、嫌ってぐらいたっぷり増えた。
余裕、それとも猶予なんだろうか。今はそれ以上考える気にゃあなれなくて、俺は布団をかけ直してそのまま眠った。
いったんピークを外れちまえば後はもう楽で、本来南斗が帰ってくるはずだった二十七日には朝から、だいたい普通に動けるようになっていた。
やっと腹にまともに入ったトーストが凄ぇ旨い。やっぱ朝はこれだな、お粥なんか食ってらんねぇ、七草ぐらいで十分だ。
まだ食ってねぇとこの表面に塗り切れてない、ハチミツを塗り直そうとして思い出す。
最近は俺がわざとメシの時間遅らせてるからシリアルばっかだったけど、ちょっと前まではトースト食べる時はいつも南斗からチューブを受け取ってた。キレられた日の朝もそうだった。
覚えてるはずなんてねぇのに、渡された時に偶然触れた指の感触が蘇る。
そしてその指が。
俺の。
「チューブの蓋、開いてないわよ」
「げっ、ね、寝ぼけてて気付かなかった」
――うわ、何意識トバしてんだ、俺。母さんに声かけられて、心臓とかバクバクいってるし。
ハチミツのチューブの蓋っていつも開いてたから、自分で取るなんて発想、すぐに出てこなかったんだよな。
「北斗は今日はどうするの?」
「バイトねぇし、家で宿題でもしてる」
母さんにああは言ったものの、部屋で英語の教科書開いても俺は何となく集中出来なかった。
今頃、会長とか他の天文部員は帰る準備してんのかな。それで残るのは幸崎先生と南斗だけで。
二人はやっぱり、星の話とか時間を忘れてしたりするんだろうか。
ふと、気付いた。
それは、天文部に入りたい理由になるぐらい、俺自身が強く望んだ事だった。
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