――煤払いにいつもの男手が一人足りねぇのって思った以上に辛い。っつぅか何で大晦日まで掃除を先延ばすかな、うち。
風邪が治った俺はここぞとばかりこき使われて、一階の高いところにはたきを掛けたり、天井の黒ずんだ部分の汚れ落としをさせられた。去年の仕事量は半分で済んだのに……くそっ!
しまいにゃ、南斗の部屋の掃除まで言いつけられた。
「何でだよ、手ぇ空いてんなら母さんがやりゃいいじゃん」
「だって、年頃の息子なんだから部屋に入られるの嫌でしょう?」
んなこと言ったって、毎日掃除機かけるために入ってる癖に。単に母さんが面倒なだけじゃねぇのか?
普段から南斗の部屋は整理整頓されてるし、持ち主の許可無しでモノを動かすわけにゃいかねぇから、やることっつったらはたき掛けとガラス拭きぐらいだった。
「あれ、この部屋鏡なんてあったのか」
勉強机の真横の壁にシンプルな鏡が掛けてあった。椅子に座って横向いたら、ちょうど肩から上が映るぐらいの位置と大きさだ。
まぁこれも掃除対象になるから、家庭用洗剤ぶっかけてぞうきんで拭う。
その時、ズボンのポケットに突っ込んでいた携帯電話が鳴った。掃除道具を南斗の机の上に置いて着信を受ける。
『もしもし。天宮?』
「何だ久保田か。どうした?」
『あのさぁ、クリスマスパーティの時、今度はみんなで初詣行こうって言ったじゃん。憶えてる?』
そう言えばそんな話あったような……すっかり忘れてた、俺。
「あ、ああ。初詣ね」
『折角だから年が変わってすぐお参りしたくねぇ? だから夜の十一時五十分に駅前集合、って事になってんだけど』
「ちょっと待て。それじゃ『行く年来る年』見れねぇじゃん!」
『今年一回ぐらい見なくたって、あんなの去年と内容変わらねぇよ、多分』
そりゃ久保田の言うとおりだけど、その全然変わらない内容を視るのが一年の締めくくり、って感じで良いんじゃん。
まぁ、こんな程度のことで友情を失うのも何だから、俺は久保田の誘いを受ける事にした。
「他に誰が来んの?」
『いつもと同じメンバーだよ、橘と菱井と緑川。下田とかは田舎帰ってんだってさ』
「了解。十一時五十分に駅前な?」
『そ。遅れんなよー』
久保田からの電話を切った後、俺はすぐに菱井に電話を掛けた。
『あー初詣ね。確かに久保っちから連絡あったよ』
「お前も行くんだろ?」
『ああ。途中から一緒に行く?』
菱井とは俺のバイト先の前で待ち合わせる事になった。本当はどう考えてもバラバラに駅まで行く方が効率良いんだけど、何となく菱井と話がしたかった。
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