「母さん。夜に友達と初詣行く約束してんだけど」
「じゃあ、年越し蕎麦はいつもより早く用意しないといけないわね」
……しまった。年越し蕎麦も「行く年来る年」見ながら年が変わる瞬間に食うのが好きなのに。
年越し蕎麦が出来たのは、ちょうど紅白が後半戦に入ったぐらいの頃だった。
俺、ホントは格闘技とかの裏番組が観たいんだけど、天宮家の七十五パーセントが熱狂的に紅白を指示してるもんだから、一度も叶ったためしが無い。バイト代貯めて部屋にテレビ買いてぇなぁ。けど、俺が買えるようなレベルの奴は何年かしたら役立たずになるんだよな……。
蕎麦を食うのは必ず全員揃ってから、って事になってる――今年は一人いないからか、いつもは向かい合ってるはずの父さんと母さんは隣り合って座った。
「北斗」
「……何?」
食うのを中断して前を向くと、二人はやたら真剣な顔で俺を見ていた。
「今まで、すまなかった」
その一言だけで、父さん達が何言いたいのか判った。
俺が風邪を引いて以来何となく元の感じに収まってたけど、俺が親に不満をぶちまけて以来、この件についてちゃんと話し合ったことが無かったのだ。
「お前が辛いと感じているのに全く気付けなかったなんて――親失格だな」
「あれからね、お父さんと何度か話し合って。北斗は北斗、南斗は南斗で、双子でもあなた達はそれぞれ別の人間なんだ、って事が解っていなかったのね、私達」
そう言って母さんは無理に微笑んだ。
「仕方ねぇよ……昔は俺ら、あんま違いが無かったし」
その、同じだった時期の延長って感じで親も俺らを見てたんだろう、って、俺は考えられるようになっていた。
俺にはどうせ無理だから、って早々に努力すること放棄したから、俺と南斗の差が広がるのは当然で――。
何でかなぁ……それでも、俺は『南斗』と全然違うって思い知らされんの、凄ぇ嫌だったんだ。
「今まで嫌な思いをさせてしまった時間は取り返しがつかないけど、これからはあなたをあなたとして尊重するわ」
「北斗も、これからは不満があれば何でも言って欲しい。きちんと向き合って話し合って、一つ一つ解決していけるような親子になれれば良いと、俺も母さんも思ってる」
確かに両親は俺と南斗の区別を付けられなかったかもしんねぇけど、俺にだって悪いとこ、たくさんあったと思う。
だから俺らはかなり長いこと話し合ってて、気がついたらせっかくの年越し蕎麦はすっかり伸びきっちまってた。
「まずくなっちまったな」
父さんは俺と目を合わせると、苦笑いして蕎麦をすすった。
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