待ち合わせ場所には先に菱井が来ていた。菱井は近づいてくる俺をすぐに見つけて、自分の方から寄ってきた。
「よっ」
笑いながら片手を挙げる菱井に応じる。俺らはそのまま、駅の方角に向けて歩き出した。
「菱井。お前テレビ何見てた?」
「やっぱ格闘だろ、格闘。親と可奈は紅白だけどな」
「……羨ましい。あれ、お前の部屋ってテレビあったっけ?」
前に菱井の部屋に上がり込んだ時にそんなもん見た記憶、無ぇんだけど。
「大昔に誕生日プレゼントで携帯用テレビ買って貰ったことあるんだよ。局によっちゃノイズだらけだけど、見れないこたぁねーよ」
菱井が言うにはテレビの位置そのものとかアンテナの長さや向きの設定にコツがあるらしい。あぁ、でもその手があったか。小さいのなら数年でお払い箱でも惜しくねぇかもな。
「――で、俺を呼び出したのって、そういう話のためじゃねーだろ?」
やっぱ菱井には全部判ってたみたいで、すぐに話題を切り替えてきた。
「お前に言われたとおり、俺、考えてみた」
「それで北斗は結論、出したのか?」
「今のままだと、いくら考えても出ない気ぃ、するんだ」
最近の俺の思考は、何かするたび南斗の事を連想する。あの時あいつはどういう気持ちでこんな事すんだろう、あんな事言ったんだろう、っていつも考える。
「そうすっと色んな事見えてきて、あぁ南斗ってやっぱ俺のこと好きなんかな、って」
「愛されてる実感は置いといて、北斗はそれ、どう思うんだよ」
「嫌だとか嫌悪感とかは全然無くて、あの時のこと思い出しても南斗が憎いとか、そういう風には感じない」
男性恐怖症にはなんなかったんだな、と言いながら肩組んできた菱井を思い切りどついてやった。
「だからあいつが逃げてるような今の状態、わけわかんなくてさ――お前も多分聞いてると思うけど。小野寺会長から」
「あぁ、天宮南斗はギリギリまで居残ってんだろ?」
「南斗のいるペンションって、幸崎先生の兄貴のなんだってさ。あいつは先生とずっといるんだ、って思ったら、嫌な気分になって」
「それってひょっとして嫉妬?」
じゃあ、と言いかける菱井の言葉を打ち消すために俺は続けた。
「だから判んなくなっちまったんだよ――俺はどっちにむかついてんのかが」
奈良さんに告白された時、思い出したのは南斗と幸崎先生の両方だった。
南斗とはずっと一緒にいる、ってガキの頃は思ってた。
幸崎先生とはずっと一緒に星の話がしたいと文化祭の時に思った――俺だけの時間を南斗に邪魔されたくない、って思ってた。
「南斗と先生の顔、両方ちゃんと見たい。両方に対する感情がどう違うのか、そうしねぇと多分、ハッキリしねぇんだ」
prev/next/polestars/polestarsシリーズ/目次