集合場所と時間に遅れたのは、結局久保田一人だった。
「遅いぞ、言い出しっぺの癖に」
「す、すまん。電車一本乗り過ごした」
「……キミだけ家が遠いんだから、余裕を持って行動すべきじゃあないのかい?」
橘と緑川に責められて、久保田は縮こまっている。
「早く行こーぜ。余計混むぞ」
菱井の一声で、俺達は神社方面に向かって歩き出した。
新年に切り替わって即初詣、ってのはやっぱみんな考える事で、近づくにつれ人混みが凄ぇ状態になっていく。
「除夜の鐘の音、大きくなんないなぁ」
「バカ橘。鐘を突くのは寺だぞ寺」
時々かすかに聞こえてくんのは、きっと駅を挟んで反対側の寺のやつなんだろう。
「除夜の鐘って煩悩を消すんだよな? 俺達、あっちの方に行った方が良かったかもよ」
菱井が言った。こいつ、俺の顔見てやがる。
「何考えてんだよ」
「――まー、俺だって人のこと言えないけどな。人間だもの」
肩を叩かれる。ちょっと立ち止まった隙に橘たちとはぐれそうになるから、慌てて追いかけた。
「煩悩か。多分ボク達百八つじゃ収まらないと思うね」
「そりゃ、緑川にゃ人間の数だけ煩悩があるんじゃねぇの?」
「やっぱ初詣は寺にしとくべきだったか」
「良いんだよ、神社なら巫女さん拝めるだろ巫女さん!」
――久保田の奴、それが目当てだったのかよ!
「坊さんの群れよかマシだろうけど……妹の次は巫女さんか。久保っちって属性コロコロ変わるなー」
内心思い切りツッコミ入れてた俺と対照的に、菱井は変な事に感心していた。
参拝客が入れ替わり立ち替わりで鈴鳴らすから、かなりうるさい。っつぅか静かな状態が一秒保ったためしがない。
俺達が賽銭箱の近くに辿り着けたのは、年を越して三十分ぐらい経ってからだった。
「そうだ、賽銭出さなきゃ。お前ら金額どーするよ?」
「神様に何願うかによるんじゃね? でっけー願い事だったらそのぶん賽銭弾まないと聞いてくれないかもよ」
「北斗。お前は五円な」
「何で。五円玉、今財布に入ってねぇよ。一円玉も足りねぇし」
「とにかく何が何でも五円にしとけ。俺が両替してやるから」
菱井は自分の財布から五円玉を二枚出して、俺が持っていた十円玉をむしり取って押しつけてきた。
「二枚投げるんじゃねーぞ、一枚だぞ一枚。『御縁』だからな」
菱井に文句言おうと思ったけど、後ろから押されて自分たちの番だって事に気付いた。
まぁ、菱井があんなに熱心に言ってるし、賽銭の金額は言うとおりにしとこう。
アンダースローで投げた五円玉は、我ながら綺麗なアーチを描いて賽銭箱に吸い込まれた。
柏手打って鈴鳴らして、拝む内容はただ一つだ。
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